2023.11月号 ドクターコラム ドクターコラム
「リプロ」のプロ集団Mimosa代表の産婦人科医、杉山伸子です。
このコラムでは、リプロダクティブ・へルス(略して「リプロ」)に特化した情報を皆さんにお届けしています。
11月12日~25日は、女性に対する暴力をなくす運動の期間です。シンボルカラーが紫色のため、今までにも神戸タワーが紫色にライトアップされたのをご覧になった方がいらっしゃるかもしれません。
今回は、女性に対する暴力のうち、性暴力についてお話しします。
《女性に対する暴力》
女性に対する暴力をなくす運動は平成13年から行われています。その間、配偶者暴力相談支援センターへの相談件数は増え続け、令和4年度で122,010件の相談がありました。
令和3年に内閣府が行った「男女間における暴力に関する調査」によると、女性の約4人に1人は配偶者からの暴力の被害経験があると答えました。また、およそ14人に1人の女性が、無理やりに性的な被害経験があると答えています。加害者の多くは、交際相手(31.2%)や配偶者(17.6%)、元配偶者(12.0%)であり、多くの性暴力がドメスティック・バイオレンス(DV)の一形態として現れていることがわかります。
《性暴力とは》
L子さんは、お母さんと一緒に受診された高校1年生です。交際相手の家に遊びに行った時に、交際相手とその友人から望まない性行為をされたそうです。
看護師の話では、待合室ではパーカーの帽子を深くかぶり、ずっとうつむいていたそうです。診察時に取り乱すことはありませんでしたが、葛藤している様子が硬い表情からうかがえました。好意を持っている相手からの暴力に、とても深く傷ついたに違いありません。
それでも勇気を出してお母さんに伝えたことで、産婦人科受診につながることができました。今後も継続した支援を受けてほしいと思い、性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターへ連絡するようお勧めしました。
ワンストップ支援センターとは、性犯罪・性暴力に関する相談窓口です。産婦人科や警察への同行支援、カウンセリングなどの支援を受けられるほか、自治体によっては医療費などの助成もあります。産婦人科では、必要や希望に応じて、緊急避妊薬の処方や性感染症の検査、証拠の採取などを行います。
性暴力とは、L子さんが受けたような、「相手の同意のない性的な行為」をさします。
性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターへの相談件数は年々増加しており、令和4年度は63,091件になりました。そのうち9割が女性からの相談です。また、相談者の年齢は20代以下が7割を占め、面談による相談に限れば4割以上が10代以下となっています。このように、被害者の多くが若い年代の女性です。
性暴力は、被害者の心身を傷つけ、被害後も長期にわたって苦しめることがあります。決して許されるものではありません。
《身近な性犯罪、痴漢》
ところで、ここまで読まれた多くの方が、ご自身は性暴力と無縁だとお感じかもしれません。本当にそうでしょうか。
内閣府の調査によると、16~24歳の女性の10人に1人が被害を受けたことがある性犯罪があります。
それは「痴漢」です。
警察庁のデータによると、痴漢の被害者の4分の3以上が10~20代の若年層です。若年層の女性にとって、痴漢は身近な性暴力被害となっているのです。
痴漢は、れっきとした犯罪です。痴漢被害に遭うのは、被害者に落ち度があったからではありません。
「触られたくらいで、気にしすぎだ」「狙われそうな服装をしていたんだろう」といった痴漢被害に対する誤解もあってはなりません。
では、痴漢に対してどういう態度をとればいいのでしょうか。ここでは、政府が令和5~7年度における性犯罪・性暴力対策の更なる強化の方針において発表した、痴漢対策を進める上での基本認識をご紹介します。
- 痴漢は重大な犯罪である
- 痴漢の被害は軽くない
- 被害者は一切悪くない
- 被害者を一人にしてはいけない
- 痴漢は他人ごとではない
これらの認識は、他の性暴力や暴力にも通じるものです。
被害を受けた人がいたら、「あなたは悪くない」と伝えてあげてください。その人の話を丁寧に聴き、そのまま受け止めてください。否定したり責めたりせず、必要な場合には、各種相談窓口をご紹介ください。
《相談窓口の全国共通短縮番号》
性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター:#8891
性犯罪被害相談電話(警察):#8103
Mimosa代表 杉山伸子
10年を超える産婦人科医としての臨床経験を通じて、女性がより健康で幸せな生活を送るためには、女性の健康リテラシーの向上が大切だと考えるようになりました。
その実現を目指し、女性の健康に関する情報提供・教育・相談を行う団体として、Mimosaを立ち上げました。
共に活動しているメンバーは、今までの職場で出逢った信頼できる女性医療のプロばかりです。