108. 2024.4月号 ドクターコラム


「リプロ」のプロ集団Mimosa代表の産婦人科医、杉山伸子です。

このコラムでは、リプロダクティブ・へルス(略して「リプロ」)に特化した情報を皆さんにお届けしています。

「つい子どもにきつく言ってしまう」

「ふだんなら許せる子どもの行動にイライラしてしまう」

そんなお悩みはありませんか。

子どもが嫌いなわけではないのに、と後で自己嫌悪に陥ることもあるかもしれません。

どうしてイライラしてしまうのでしょうか。実は、イライラの原因は自分の中にあります。お子さんのせいでも、お子さんの行動自体のせいでもありません。

私たちは、自分が「…であるべき」と考えている内容と現実が異なる時、怒りの感情を持ちがちです。たとえば、「子どもは9時までに寝るべき」と考えていると、寝ようとせずに遊んでいるお子さんを見るとイライラしてしまうのです。

では、同じ行動でもイライラする時としない時があるのはどうしてでしょうか。「…であるべき」の重要度が状況によって変わることもその一因ですが、女性の場合、もしかしたら全然違う原因があるかもしれません。

それは、月経前症候群です。

月経前症候群とは、月経前3~10日間続く精神的あるいは身体的症状の総称です。月経が始まると症状は軽くなり、月経が終わるまでになくなります。

いろいろな症状が出ます。よく見られる症状は、イライラや情緒不安定、抑うつ気分や自己評価の低下、乳房が張る感じ、腹部膨満感、むくみ、だるさ、頭痛、腹痛などです。

症状が軽い人もいれば、強く出る人もいます。特に精神症状が強い場合は、外に出るのもつらくて学校や職場に行けなくなったり、感情のコントロールができなくなりトラブルになったりすることもあります。

実は、「ふだんなら許せる子どもの行動にイライラしてしまう」というのは、「私は月経前症候群ではないか?」と産婦人科を受診される方がよく言われる悩みでもあります。

月経前症候群は、症状を改善することが可能です。

軽い症状の場合は、セルフケアが有効です。

・バランスのとれた食事をとり、甘いものを控える

・ビタミンやミネラル(カルシウムなど)をしっかり摂る

・刺激物やアルコールを控える

・定期的に適度な運動をする

・自分にあったリラクゼーション法(アロマセラピーやヨガ、マッサージなど)を実践する

・ストレスをためない

また、つらい時期のスケジュールに余裕を持たせたり、周囲に伝えて理解を得たりする工夫も役に立ちます。

それでもつらい場合は、薬による治療を受けましょう。具体的には、漢方薬、ホルモン療法、抗うつ薬などが用いられます。産婦人科医とともに、自分にあった治療法を選んでいきましょう。

個人的には、月経前のイライラには、漢方薬の処方が有効なことが多いと感じています。ひとり一人に適した漢方薬を選んでいくため、初回の診療で最適な薬を見極めることができないかもしれませんが、治療の選択肢が一つではないという強みにもなります。

最後に、一般的なイライラ対策についてもお伝えします。月経前症候群のイライラに対しても有効です。

・6秒ルール:感情のピークはたったの6秒です。イラっとしたら、すぐに言い返したりせず6秒待ってみましょう。その間、自分が落ち着く言葉や好きな曲のサビを頭の中で繰り返します。イライラをやり過ごせます。

・タイムアウト:その場を静かに離れます。大きな音を出したりして、怒りを表現することのないように。

・腹式呼吸:意識的にお腹をふくらませてゆっくり息を吸い、吸う息の2倍くらいの時間をかけて息を吐ききります。副交感神経がはたらいて、気持ちも落ち着きやすくなります。

いろいろな方法を使って、必要な薬も活用して、イライラの少ない毎日を過ごしましょう。

Mimosa代表 杉山伸子

 10年を超える産婦人科医としての臨床経験を通じて、女性がより健康で幸せな生活を送るためには、女性の健康リテラシーの向上が大切だと考えるようになりました。
その実現を目指し、女性の健康に関する情報提供・教育・相談を行う団体として、Mimosaを立ち上げました。
共に活動しているメンバーは、今までの職場で出逢った信頼できる女性医療のプロばかりです。