2024.9月号 ドクターコラム
「リプロ」のプロ集団Mimosa代表の産婦人科医、杉山伸子です。
このコラムでは、リプロダクティブ・へルス(略して「リプロ」)に特化した情報を皆さんにお届けしています。
20年以上前、私が医師になりたての頃のことです。
妊娠後期に入院されてきたN子さんは、進行した子宮頸がんでした。里帰り分娩のために実家近くの産婦人科を受診したところ、子宮頸がんの検診を受けていなかったことがわかりました。今でこそ、子宮頸がん検診は妊婦健診の一環としてすべての妊婦さんが妊娠初期に受けていますが、当時はそこまで妊婦健診の助成が充実していませんでした。そして、里帰り先の産婦人科医が気になって検査をしたところ、異常が見つかったのです。
N子さんは、急きょ大学病院に転院してきました。帝王切開で出産することになりました。その後、子宮頸がんの治療として子宮や卵巣を摘出する手術をする予定もたちました。あまりに突然のことで、N子さんは不安や戸惑い、さまざまな感情を抱えているようでした。それでも、「これから産まれてくる赤ちゃんのために頑張ろう」と気丈に振舞っているのが印象的でした。
日本では、年間1万1千人以上が子宮頸がんと診断され、毎年およそ3000人が亡くなっています。残念ながら、今でも子宮頸がんと診断される人や亡くなる人の数が増え続けています。子宮頸がんは、20代から発症し始め、発症のピークは30歳代後半です。つまり、N子さんのような妊娠・出産・育児をする世代に大きな影響を与えるがんであり、「マザーキラー」とも呼ばれるほどです。
一方で、早く見つけて早く治療すれば、治るがんでもあります。早く見つけるためのがん検診も確立しています。市町村が実施するがん検診は、比較的少ない負担で受けられます。ただ、ここで問題となるのが受診率の低さです。妊婦健診として子宮頸がんのがん検診を受けた方でも、その後継続してがん検診を受けている方は多くありません。
皆さんは、どうでしょうか。子宮頸がん検診を定期的に受けていらっしゃいますか。
市町村が行う子宮頸がん検診の対象は、20歳以上の女性です。2年に1回受けられます。
市町村によって異なりますが、神戸市の場合、年度内に年齢が偶数歳になる人が対象です(たとえば、今年度34歳になる1990年4月1日~1991年3月31日生まれの人)。年度で区切られているため、早生まれの人は注意が必要です。
さて、対象だと分かったら、お近くの産婦人科に予約をとりましょう。近くにある医療機関が分からなければ、神戸市のHPで確認しましょう。多くの医療機関で子宮頸がん検診を受けることができます。
職場によっては、健康診断のオプションとして子宮頸がん検診や乳がん検診が受けられます。検診のために時間を作る手間が省けます。そちらを活用してもいいですよね。
N子さんのように、子宮頸がんで苦しむ人を減らしたい。そのためにも、子育て世代の女性にこそ、子宮頸がん検診を受けてほしいと願っています。
がん検診で見つかる異常は、すべてが「がん」ではありません。経過観察中に、なくなってしまう軽い異常も含まれます。また、子宮頸がんは、早く見つければ子宮を残す方法で手術ができます。小さな手術であれば、入院や治療の期間も短くて済みます。子宮を残せれば、その後の妊娠・出産も可能です。
定期的にがん検診を受けることで、かかりつけ産婦人科医をつくることもできます。月経のこと、今後の妊娠のこと、避妊のこと、お子さんへの性教育など、産婦人科医に気軽に相談できる関係が築けたら理想的ですよね。
さぁ、少しの勇気を出して、子宮頸がん検診に行ってみましょう。
《参考サイト》
神戸市:子宮頸がん検診https://www.city.kobe.lg.jp/a00685/kenko/health/kenshin/shimin/shikyugan/index.html
Mimosa代表 杉山伸子
10年を超える産婦人科医としての臨床経験を通じて、女性がより健康で幸せな生活を送るためには、女性の健康リテラシーの向上が大切だと考えるようになりました。
その実現を目指し、女性の健康に関する情報提供・教育・相談を行う団体として、Mimosaを立ち上げました。
共に活動しているメンバーは、今までの職場で出逢った信頼できる女性医療のプロばかりです。