2025.5月号 ドクターコラム【性加害者は、ことば巧みに子どもを手なずける ~性的グルーミング~】
性的グルーミングとは
性的な目的のために、子どもにやさしく接し、信頼関係を得る行為です。
性的グルーミングを受けた子どもは、性的行為に抵抗できなかったり、
自分が性被害を受けていることを自覚できなかったりします。
性的グルーミングは、犯罪です。
性的グルーミングによる子どもへの性被害を防ぐために、令和5年に刑法が改正されました。
これにより、16歳未満の子どもに対するわいせつ目的の面会要求等が新たに取り締まりの対象となりました。
(法務省:性犯罪関係の法改正等 Q&A)
警察庁によると令和6年には、この規定に基づいて134件の検挙がありました。(令和6年 こどもの性被害状況)
NPO法人チャイルド・ファンド・ジャパンの調査によると、もっと多くの子どもたちが性的グルーミングを受けています。(グルーミングに関する若者への調査結果 チャイルド・ファンド・ジャパン )
性的グルーミングの手口は、巧妙です。
加害者は、次のようなステップを踏みながら、子どもの信頼を得ます。
- 被害者となる対象を探し出す:SNSやオンラインゲームがきっかけで起こる子どもに対する性暴力の多くが、子どもの書きこみに対して加害者が返事をすることから関係が始まっています。
- 関係性を構築する:加害者は子どもやその家族と親密な関係を築き、いい人を演じます。
- 周囲から隔離する:特別扱いをして心理的に依存させたり、部屋に招いて物理的に周囲の目を遠ざけたりします。
- 性的な行為に馴れさせ実行する:肩やひざなどに軽く触れることから始まり、徐々に性的な接触をしていきます。
- 口止めをする:「だれにも言わないでね」と秘密を共有させたり、子どもに罪悪感や恥ずかしいという意識を植えつけたりします。
そのために交わされる会話やメッセージは、非常に巧妙です。
下記の参考図書でご紹介している櫻井鼓さんの著書に例がいくつも挙げられていますが、
オトナの私が読んでも「これなら、だまされるかも…」と感じるものがたくさんあります。
子どもを性的グルーミングから守るために、保護者として対策をとりましょう。
- 包括的性教育の実施:子どもが自分の体の権利を理解し、プライベートゾーンを守る重要性を学ぶことが大切です。家庭での性教育を通じて、子どもが性被害を認識しやすくなります。
- 危険な場所・状況の認識:性的グルーミングを受けると、加害者は子どもにとって「怪しい人」ではありません。「怪しい人に気をつけなさい」ではなく、「入りやすくて見えにくい場所は危険」と教えましょう。例えば、公園の遊具の裏や団地の階段裏など、犯罪が起きやすい場所を具体的に伝えます。また、大人と子どもが二人きりになる状況も可能な限り避けるようにします。大人と二人きりの秘密を共有するのも危険なことだと教えましょう。
- 親子のコミュニケーション強化:子どもが悩みやトラブルを親に相談しやすい環境を作ることが、早期発見につながります。
- インターネット利用の監視:SNSやオンラインゲームなどでの不審な接触を防ぐため、子どものインターネット利用状況を定期的に確認しましょう。スマートフォンやゲーム機などの機能を保護者が管理できる、ペアレンタルコントロールも有効です。
- 相談窓口の活用:もし被害にあったら、性暴力被害ワンストップ支援センター(#8891)に相談しましょう。心身のケアや必要な手続きなどに関する支援が受けられます。
どんな状況であっても、性被害の被害者は悪くありません。性的グルーミングを受けても受けなくても、被害者である子どものせいでは決してありません。
保護者の知識が、そして「性暴力を許さない」という社会の意識が、子どもを性被害から守ります。性的グルーミングについて、もっと詳しく知りたい方は、下記参考図書もお読みになってください。
参考図書
- 子どもへの性加害 性的グルーミングとは何か 斉藤章佳(著) 幻冬舎
- 「だれにも言っちゃだめだよ」に従ってしまう子どもたち たくみに手なずける「ずるい言葉」 櫻井鼓(著) WAVE出版
- 小児科医「ふらいと先生」が教える みんなで守る子ども性被害 今西洋介(著) 集英社インターナショナル
- 子どもを守る新常識 性被害 セーフティガイド キンバリー・キング(著)栗田佳代(翻訳) 東洋館出版社

Mimosa代表 杉山伸子
10年を超える産婦人科医としての臨床経験を通じて、女性がより健康で幸せな生活を送るためには、女性の健康リテラシーの向上が大切だと考えるようになりました。
その実現を目指し、女性の健康に関する情報提供・教育・相談を行う団体として、Mimosaを立ち上げました。
共に活動しているメンバーは、今までの職場で出逢った信頼できる女性医療のプロばかりです。
アーカイブ
2019年11月~2023年12月まではこちらです★