2019.11月号 ドクターコラム
幼児期からの性教育 ―プライベートゾーンは大切なところ―
産婦人科医 Mimosa代表 杉山伸子
「リプロ」のプロ集団Mimosa代表の産婦人科医、杉山伸子です。 このコラムでは、リプロダクティブへルス(略して「リプロ」)に特化した情報を皆さんにお届けしていきます。
突然ですが、お子さんの性教育、どうしていますか?
「大切なことはわかっているけど、どうしたらよいか分からないから、放置…。」 という方、多いと思います。
でも、性教育は、幼児期から始めていくのが理想的です。 なぜなら、小さい頃の方が素直に話を聞いてくれるから。 そして、性教育はお子さんを性被害から守ってくれる(被害者・加害者にならない)から。
そこで今回は、
①小さい頃から始める性教育のメリット
②子どもたちの「ドキッと質問」に答えるための心がまえ
③幼児期の性教育で伝えたい内容と伝え方 について伝授します。
①小さい頃から始める性教育のメリットは、3つあります。
その1 自己肯定感が高まり、自分も他人も愛せる人間になる 科学的に正確な情報は、子どもの身体への興味を引き出し、身体を大切にしたいと思う気持ちを育てます。
その2 性犯罪の被害者、加害者にならない 13歳未満の子どもが被害者となった性犯罪の検挙件数は年間900件を超えています。最近は、ネットを通じたいわゆる「自画撮り」被害が増えており、家の中でも被害に遭う可能性があります。 性に関する知識がないと、「嫌だな」「何かおかしい」と思っても、「きっと勘違いだ」「自分が悪いんだ」「自分が我慢しなきゃ」と思いこんでしまうかもしれません。 年齢が小さいほど、「自分が悪いんだ」と思ってしまいがちです。
その3 低年齢の性体験・妊娠・中絶のリスクを回避できる 低年齢での望まない妊娠や中絶は、お子さんの学習機会や人間関係を含む人生を あっという間に狂わせてしまいます。 世界的な研究でも、適正な性教育には、初体験の年齢があがる、パートナーの数が減る、望まない妊娠を防ぐ、などの効果があることが分かっています。 性教育は、「寝た子を起こす」ものではありません。
②子どもたちの「ドキッと質問」に答えるための心がまえ
ここで言う「ドキッと質問」とは、 「僕のおちんちんが大きくなったの、なんで?」 「〇〇ちゃんとチューしたよ」 「赤ちゃんはどこから来たの?」などなど、聞かれたら返答に戸惑ってしまいそうな質問のことです。 子どもが自分の体に興味を持つことは当然であり、5歳までに8割の子どもが聞いてくるそうです。
子どもからの性に関する質問には「一度きりルール」があります。初めて聞いたときにドキッとしてしまって答えられずにいると、聞いてはいけないことだったと思ってしまいます。 そして、性は秘密にするべき卑猥なものというイメージをいだき、もう聞いてこなくなってしまいます。
実は、子どもから質問があるときこそ、性教育の絶好のチャンスです。 このチャンスを逃さないための魔法のことばを覚えておきましょう。
「いい質問!」
ドキッとした気持ちを隠して、子どもからの質問を受け止めてあげられる言葉です。
続いて、なぜその質問をしたのかにフォーカスしてみましょう。 もしかしたら、興味を持ったきっかけ、嫌な思いをした経験など、質問に隠された子どもの気持ちをつかめるかもしれません。
質問の内容にすぐに答える必要はありません。 「調べておくから後で答えるね」と伝えればOKです。 その後は、忘れたり受け流したりせず、調べたことを教えてあげましょう。
③幼児期の性教育で伝えたい内容と伝え方
「プライベートゾーンは、自分にとって大切な場所である」ということを、徹底して教えましょう。
プライベートゾーンは、「口」と「水着で隠れている場所」をさします。 具体的には、性別にかかわらず、口、胸、性器、おしりです。
自分のプライベートゾーンを見たがったり触りたがったりする人は、危険な人です。 自分のプライベートゾーンを見せたり触らせたりする人も、危険です。 危険な人に出逢ってしまったら、大声を出して逃げましょう。 そして、信頼できる大人に助けを求めましょう。
また、自分のプライベートゾーンを見せるようなことはしてはいけません。プライベートゾーンが恥ずかしい場所だからではありません。プライベートゾーンを見せることが恥ずかしいことであり、危険なことだからです。
ところで、性教育を実践する格好の場所のひとつが、お風呂です。 お風呂は、リラックスできる個室であり、他に気が散りにくい空間です。また、プライベートゾーンの洗い方も教えることができます。「他人には触らせてはいけない自分だけの大切な場所は、どーこだ?」 「口、胸、性器、おしり」と教えていきましょう。
素直に聞いてくれるのも、一緒にお風呂に入るのも、せいぜい10歳までくらいです。
さぁ、お家での性教育、始めてみませんか?
Mimosa代表 杉山伸子
10年を超える産婦人科医としての臨床経験を通じて、女性がより健康で幸せな生活を送るためには、女性の健康リテラシーの向上が大切だと考えるようになりました。
その実現を目指し、女性の健康に関する情報提供・教育・相談を行う団体として、Mimosaを立ち上げました。
共に活動しているメンバーは、今までの職場で出逢った信頼できる女性医療のプロばかりです。