2020.3月号 ドクターコラム
「リプロ」のプロ集団Mimosa代表の産婦人科医、杉山伸子です。 このコラムでは、リプロダクティブへルス(略して「リプロ」)に特化した情報を皆さんにお届けしています。
新型コロナウイルス:私たち大人が感染を広げないために
産婦人科医 Mimosa代表 杉山伸子
学校に一斉休校が始まり、兵庫県内でも新型コロナウイルスの感染が確認されました。誰から感染したか分からない症例が増えている現在、見えないところでの感染が広がっていると考えなくてはなりません。 一斉休校の措置が無駄にならないように、私たち大人が感染を拡大させない行動をとりましょう。
ここで強調してお伝えしたい予防策は、この2つ。しっかりできているか、下記のシミュレーションを読んで確認してみてください。
1. 頻繁に手を洗う
手が目に見えて汚れていない場合でも、石けんと水で頻繁に手を洗うか、アルコール入りの手指消毒剤を使用してください。
2. 目、鼻、口をさわらない
手はウイルスが付着しているかもしれない物体の表面に触れます。ウイルスに汚染した手で目、鼻、口に触れると、ウイルスが身体の表面から体内に入り込むことになります。
これらの目的は、新型コロナウイルスの感染経路のひとつである「接触感染」を予防することです。 接触感染とは、ウイルスが付着しているものを触れることでウイルスが手に付着し、その手で目、鼻や口に触れた結果、粘膜からウイルスに感染するルートです。
・あなたの行動をシミュレーション
《駅で》
交通系ICカードを改札口でかざして入場します。 「エスカレータにお乗りの際は、手すりにつかまり…」アナウンスが流れています。あなたはエスカレータを利用しますか。
電車の中では、座っていますか。立っている場合、手すりやつり革につかまらないと危険です。 今日は少し眠いかも、自動販売機でコーヒーを買っておきましょう。
《会社で》
会社があるオフィスビルまで来ました。エレベータに乗ります。会社は何階ですか。
会社の扉を開けました。同僚に挨拶、今日も元気に働きましょう。 回覧のメモを見てサインをしてから、自分の机に座ります。
資料をプリントアウト。パソコンは自分のものでもプリンタは共有です。 トイレに行くとしましょう。用を足すまでに、何枚の扉を開け閉めしますか。電気をつけたり消したりしますか。
《ランチ》
社員食堂に入ります。 トレイにご飯、お汁、メインをのせて会計を済ませます。
テーブルについたら、ご飯にお気に入りのふりかけをかけました。それでは、おいしくいただきます。
・解 説
感染が広がっている現在、不特定多数の人が触れるものにはウイルスが付着していると考えましょう。ウイルスに触れないようにするために、それらのものに触れた後は手を洗った方がよいでしょう。
先述のシミュレーションにおいて、不特定多数の人が触れるものに自分も触れる機会は何回あったでしょうか。その度に手を洗うことは困難だということが見えてきましたか。
そこで大切なのが、不用意に自分の目、鼻、口をさわらないという意識です。私もそうですが、自分の鼻や頬に触れる癖がある人は少なくありません。手を洗えない外出中は、「顔に手を持っていかないぞ」という強い意志を持ちましょう
そのうえで、手を洗ったりアルコール消毒をしたりできる状況になれば、必ず手を洗うようにしましょう。たとえば、会社や家に着いたとき、駅や店頭に手指用アルコール消毒剤があったときなどです。
さて、顔には触らないようにしたところで、スマホはどうでしょうか。
電車の車内では、スマホとにらめっこしている人をよく見かけます。食事中や、時にはトイレの中でも。
イヤホンを使用しない限り、スマホで通話するとき、本体を顔に近づけることになります。スマホにウイルスが付着していると、接触感染を起こしかねません。 こまめに手を洗っていても、スマホを石けんで洗う人はいないでしょう。スマホは自分の顔と思って、手を洗うまではさわらない方が安全です。
・手洗いや消毒のポイント
《手の洗い方》
けんをよく泡立て、指先や爪の間、手首までしっかり洗いましょう。 洗ったら、清潔なタオルかペーパータオルで水分を拭き取ります。水滴をとばすハンドドライヤーはお勧めしません。 手順をしっかり復習したい方は、こちらをチェックしましょう。手洗い(出典:首相官邸HPより)
《アルコールによる手指消毒の方法》
アルコール消毒剤を使うとき、手のひらをさっとこすり合わせるだけで終わっていませんか。
アルコールの量が少ないと効果が不十分です。少なくとも15秒以上はアルコールで手が濡れている状態で手をこすり合わせられるように、十分な量を使ってください。
こすり合わせる部分も、手を洗うときと一緒です。指や爪の間などもしっかりこするようにしましょう。
《ものの表面の消毒方法》
ドアノブやスイッチ、ボタンなどの表面は、0.05%の次亜塩素酸ナトリウムで拭くのが効果的です。
家庭用の塩素系漂白剤を薄めれば作れます(濃度6%の製品なら、500mlの水に約2ml加える)。ペーパータオルなどに含ませて使いましょう。
・マスクの使用について
マスクは正しく使うことで、飛沫感染のリスクをある程度下げることが可能です。マスクをすることで、咳やくしゃみによって飛沫となって飛び散るウイルスを捕捉できるからです。
極端な言い方をすれば、表面も顔を覆う面もウイルスが付着している可能性のあるマスクは、風邪のときに鼻水をかんだ後のぐじゅぐじゅになったティッシュペーパーのようなものです。ごみ箱に捨てるべき、不潔なものとして扱いましょう。 ですから、一度使い始めたマスクは、耳にかけるひもの部分以外は触らないでください。
ポケットに入れないで、翌日も使ったりしないで。マスクの意味がなくなってしまいます。
ご家庭に十分な数のマスクがない場合、家族が感染したかもしれないときなど必ず使うべき状況に備えて、”不要不急”のマスク使用は控えましょう。
その分、しっかりと接触感染の予防をしましょう。
・現時点(2020年3月2日)での医療機関を受診する目安
- 風邪の症状や37.5℃以上の発熱が4日以上続いている。高齢者や基礎疾患がある人、妊娠中のヒトは2日程度続く場合(解熱剤を飲み続けなければならないときを含みます)。
- 強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある。
これらの症状がある方は「帰国者・接触者相談センター」にご相談ください。
神戸市の場合、TEL 078-322-6829、FAX 078-391-5532です。いずれも24時間対応です。
Mimosa代表 杉山伸子
10年を超える産婦人科医としての臨床経験を通じて、女性がより健康で幸せな生活を送るためには、女性の健康リテラシーの向上が大切だと考えるようになりました。
その実現を目指し、女性の健康に関する情報提供・教育・相談を行う団体として、Mimosaを立ち上げました。
共に活動しているメンバーは、今までの職場で出逢った信頼できる女性医療のプロばかりです。