2021.7月号 ドクターコラム
「リプロ」のプロ集団Mimosa代表の産婦人科医、杉山伸子です。
このコラムでは、リプロダクティブへルス(略して「リプロ」)に特化した情報を皆さんにお届けしています。
《妊娠・授乳中は、コロナワクチンは接種できるの?》
新型コロナウイルスに対するメッセンジャーRNAワクチン(以後、コロナワクチン)の接種が本格化してきました。もう接種券が届いたという方もいらっしゃるかもしれません。
コロナワクチンは、臨床試験で新型コロナウイルス感染症の発症を95%抑えることが示されています。日本に先行して大規模接種が始まっている米国や英国からも、変異株を含めた新型コロナウイルスに対する効果があるという報告がなされています。
一方で、コロナワクチンは、新しいタイプのワクチンです。長期的な副反応などに関するデータは現時点ではありません。しかし、流行が拡大している現状を踏まえて、妊娠中や授乳中であってもワクチン接種対象から除外することはしないとの提言が日本産科婦人科学会から出されています。妊娠・授乳中のコロナワクチンの接種は可能です。
《コロナワクチンを接種できない人は?》
コロナワクチンの接種を受けることが適当でないのは、次の場合です。
- 明らかに発熱している
- 重篤な急性疾患にかかっている
- ワクチンの成分(※)に対し、重度の過敏症の既往歴がある
- その他、予防接種を行うことが不適当な状態
※ワクチンの成分については、参考文献中のインタビューフォームなどをご参照ください。
《接種するかどうか、どうやって決めたらいいの?》
どんな薬やワクチンでもそうですが、コロナワクチンにおいても接種のメリット・デメリットを踏まえて、個別に判断するしかありません。
メリットは、新型コロナウイルス感染症の発症を抑えることです。たとえば、ファイザー製のコロナワクチン(コミナティ筋注)は、2回目の接種後7日目以降の感染をおよそ95%抑制します(プラセボ群では18325人中162人感染したのに対して、ワクチン群では18198人中8人が感染した)。参考までに、兵庫県の人口100万人あたりの新型コロナウイルス感染症の累計感染者数は7613人です(2021年7月15日現在)。
デメリットは、副反応が起こりうることです。コミナティ筋注の臨床試験では、接種した部位の痛みが85%程度、だるさが66%、頭痛が60%、筋肉痛が40%弱の頻度で認められたそうです。インフルエンザワクチンでは接種した部位の痛みが35%、だるさが17%、頭痛が12%、接種した部位の熱感が23%というデータがあるので、インフルエンザワクチンより副反応が起こる可能性は高そうです。重篤な副反応として、アナフィラキシーの報告があります。日本におけるコミナティ筋注後のアナフィラキシーとして報告された事例は、令和3年2月17日~6月27日における報告数が1632件あり、そのうち専門家によってアナフィラキシーだろうと判断されたものは289件でした。これは、接種100万回あたり7件に相当します。また、7月になって添付文書に「本剤との因果関係は不明であるが、本剤接種後に、心筋炎、心膜炎が報告されている」という注意が追加されました。
なお、現時点で長期的な副反応が不明であること、胎児および出生時への安全性は確立していないこと、そして、ワクチンの効果がいつまで続くのかわからないことは、デメリットと言えるかもしれません。
《妊娠中に新型コロナウイルス感染症にかかると、どうなるの?》
妊娠中だからと言って、新型コロナウイルス感染症に感染しやすいという報告はありません。基礎疾患を持たない場合、その経過は同年代の妊娠していない女性と変わりません。新型コロナウイルスに感染した妊婦から胎児への感染はまれだと考えられています。また、妊娠初期または中期に新型コロナウイルスに感染した場合に、ウイルスが原因で胎児に先天異常が引き起こされる可能性は低いとされています。
ただ、妊娠後期では重症化しやすい可能性が指摘されています。早産の可能性や帝王切開になる可能性が高くなるという報告もあります。
肥満・高血圧・糖尿病などの基礎疾患は、新型コロナウイルス感染症の重症化のリスク因子です。これらの疾患をお持ちの方は、特に感染予防に注意が必要です。感染の多い地域に住んでいる、感染するリスクの高い職業(医療従事者など)に就いている場合と同様、リスクが高い方はコロナワクチン接種を検討してみましょう。
《接種するなら、いつがいいの?》
妊娠中のコロナワクチン接種による胎児への影響は考えにくいのですが、妊娠中の方は可能であれば妊器官形成期(妊娠12週まで)のワクチン接種は避けましょう。
あらかじめ妊婦健診時に主治医と相談し、コロナワクチンを接種してもいいかどうか確認してから接種するようにしましょう。
妊娠を希望される女性は、妊娠する前に接種を受けられると良いかもしれませんが、ワクチン接種後に妊娠が判明した場合も接種や妊娠を中断する必要はありません。
《接種しても、しなくても》
接種するかどうかは、個人の判断に基づくべきものです。接種の有無を理由に差別をしないでください。コロナワクチンの接種を他人に強制してもいけません。
判断をするにあたっては、可能な限り正しい情報を入手するようにしましょう。現時点で分かっていることは、コロナワクチンの効果は非常に高いこと(およそ95%)、副反応がよく見られる(症状によるが多いものでは6~8割程度)が多くの場合1~2日でおさまることです。それ以外のワクチンの影響、特に長期的なことはわかっていません。「ワクチンを打つと不妊症になる」のような断言的な情報は、データに基づいたものとは言い難く信頼できません。気になる情報を見かけた時には、その根拠となった文献(論文)が示されているかどうか確認してください。
新型コロナウイルス感染症に対する免疫は、ワクチン接種後すぐにはできません。また、ワクチン接種後も感染のリスクがゼロになるわけではありません。接種後も、引き続き感染予防対策をしっかり行ってください。
お仕事によっては、職場での感染リスクを心配されている方もいらっしゃることでしょう。職場で新型コロナウ イルス感染症への感染のおそれに関する心理的なストレスが妊婦の健康に影響を及ぼすと考えられる場合には、事業主は必要な措置を講じる義務があります。不安やストレスがある場合には、妊婦健診時に主治医に伝えましょう。措置が必要と判断されれば、母性健康管理指導事項連絡カードを記載してもらえます。
《参考文献:いずれも2021年7月15日にアクセス》
妊産婦のみなさまへ―新型コロナウイルス(メッセンジャーRNA)ワクチンについて―(日本産科婦人科学会)http://www.jsog.or.jp/news/pdf/20210617_COVID19.pdf
COVID-19 ワクチン接種を考慮する妊婦さんならびに妊娠を希望する⽅へ(日本産科婦人科学会)http://www.jsog.or.jp/news/pdf/20210512_COVID19.pdf
コミナティ筋注インタビューフォーム(ファイザー株式会社)https://www.pfizer-covid19-vaccine.jp/コミナティ筋注_インタビューフォーム.pdf
COVID-19ワクチンモデルナ筋注インタビューフォーム(武田薬品)https://www.take-care-covid-19.jp/images/pdf/VAC-MOD_HP_24b.pdf
インフルエンザHAワクチン「第一三共」インタビューフォーム(第一三共株式会社)https://www.medicallibrary-dsc.info/di/influenz_vaccine_1ml/pdf/if_vfl_vac1ml_2003_13.pdf
第63回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、令和3年度第12回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会(合同開催) 資料(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000208910_00025.html
新型コロナウイルスの検査・陽性者の状況(兵庫県ホームページ)https://web.pref.hyogo.lg.jp/kf16/coronavirus_data.html
Mimosa代表 杉山伸子
10年を超える産婦人科医としての臨床経験を通じて、女性がより健康で幸せな生活を送るためには、女性の健康リテラシーの向上が大切だと考えるようになりました。
その実現を目指し、女性の健康に関する情報提供・教育・相談を行う団体として、Mimosaを立ち上げました。
共に活動しているメンバーは、今までの職場で出逢った信頼できる女性医療のプロばかりです。