80. 2023.1月号 ドクターコラム


2023.1月号 ドクターコラム

新年あけましておめでとうございます。「リプロ」のプロ集団Mimosa代表の産婦人科医、杉山伸子です。

このコラムでは、リプロダクティブ・へルス(略して「リプロ」)に特化した情報を皆さんにお届けしています。

2023年の干支は「癸卯(みずのとう)」です。「癸卯」には、それぞれの字の意味から「これまでの努力が実を結び、勢いよく成長し飛躍するような年」というような縁起のいい意味があるそうです。

今回は、「成長」に関連して、妊娠中の体重増加の目安についてご紹介しましょう。

G子さんは、身長が160cmで体重が48kgと元来きゃしゃな体型の女性です。月経不順がありましたが、不妊治療を始めて間もなく妊娠することができました。

つわりの時期は、なかなか食べられず、また食べても吐いてしまうことが多く、妊娠する前の体重より3kgほど減ってしまいました。

妊娠中期になり、つわりはおさまりました。減っていた体重はやっと戻りましたが、その後はあまり増えていきません。

妊娠8ヶ月になった頃、2週間で1kg程度増えたのを見て私が安心していたら、「体重、増えすぎていませんか?」とG子さんは心配そうにおっしゃいました。

《妊娠すると、体重は増えます》

妊娠中は、胎盤から出るホルモンの働きもあって太りやすくなっています。赤ちゃんに優先的にブドウ糖を供給するために、お母さんの体に脂肪を蓄えやすくしたりするからです。

また、出産時の出血に備えるために、血液の量も1.5倍ほどに増えます。

赤ちゃんや胎盤、羊水、大きくなった子宮などの重さを考慮すると、臨月の頃にはおよそ7~8kgは増えている計算になります。

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G子さんの体重増加は、つわりで減った時期から考えても5kgです。本来増えているであろう重さより少ないので、その分やせてしまっていることになります。そのことを説明したうえで、「もっと増えても大丈夫なんですよ」とお答えしました。

それでは、妊娠中の体重はどの程度増えたらいいのでしょうか。

《体重増加の目安は?》

妊娠中の体重増加の目安は、妊娠する前の体格(BMI)によって設定されています。

妊娠前の体格体重増加量指導の目安
低体重(やせ):BMI18.5未満12~15kg
ふつう:BMI18.5以上25.0未満10~13kg
肥満1度:BMI25.0以上30.0未満7~10kg
肥満2度以上:BMI30.0以上個別対応(上限5kgまで)

実は、この目安は2021年3月に改訂され、以前の推奨体重増加量に比べて1~3kg増えています。また、「推奨体重増加量」から「体重増加量指導の目安」というように、表現もゆるくなっています。

それは、日本では低出生体重児(2500g未満で生まれる小さな赤ちゃん)の割合が高いという問題があるからです。その割合はおよそ10人に1人で、先進国の中で極めて高くなっています。低出生体重児は、生まれた直後に病気になりやすいだけでなく、将来生活習慣病になる可能性が高いなどのリスクもあります。低出生体重児を減らすことが喫緊の課題となっているのです。

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G子さんの望ましい体重増加量はどの程度なのでしょうか。この目安を使って調べてみましょう。

まず、G子さんのBMIを計算します。BMIは、体重(kg)を身長(m)の2乗で割ったものになります。

G子さんのBMI= =17.6

G子さんの体格は、BMIが18.5より小さい値なので、低体重(やせ)に相当します。したがって、妊娠中の体重増加量の目安は12~15kgということになります。

《適切な体重増加のために》

妊娠中は、赤ちゃんの成長のために、必要なエネルギー量や栄養素が増えます。その分、妊娠中期以降は適切な食事量を付加する必要があります。

日本人の食生活指針(2020年版)によると、妊娠中期には250kcal、後期には450kcalの付加が必要とされています。より具体的な指標として、妊産婦のための食事バランスガイドがあります(図1)。妊娠中期は野菜がメインのおかずとたんぱく質がメインのおかず、果物などで2品程度、妊娠後期はそれに加えて主食や牛乳・乳製品も増やすことが勧められています。

図 1(https://www.nibiohn.go.jp/eiken/ninsanpu/balanceguide.htmlより引用)

《妊活の時から始めたい、バランスのよい食生活》

やせ型の妊婦さんの中には、「食べても体重が増えません」とおっしゃる方が時々いらっしゃいます。もともと小食の場合、食事量をいきなり増やすのは難しいものです。増やそうと努力しても、赤ちゃんの成長や子宮の肥大に見合うエネルギー量までは摂取できないかもしれません。妊娠前からご自分の活動量に合わせた食事をとるようにしましょう。やせ型の場合、標準体型に近づけた方が妊娠しやすくなることもあります。

また、妊娠前の食生活のバランスが整っていないと、妊娠中に必要な栄養素を摂るための食生活に変えるのに苦労を伴います。妊娠を考える前からバランスのよい食生活を続けておくことが大切です。

では、「バランスのよい食生活」とは、どんなものなのでしょうか。

手の込んだ料理である必要はありません。おかずの品数がたくさんある必要もありません。もちろん、冷凍食品やスーパーで買った総菜を活用しても問題ありません。ポイントは次の3つです。

①お米やパン、めん類などの炭水化物を多く含む主食を摂ること。大切なエネルギー源です。

②野菜やいも類、豆類、海藻などをたくさん食べて、ビタミン・ミネラルの不足がないようにすること。妊娠前~妊娠中は、特に葉酸・鉄・カルシウムをしっかり摂取しておく必要があります。

③肉や魚、卵、大豆などのたんぱく質を多く含む食材を摂ること。赤ちゃんのからだを作るためには、たんぱく質が欠かせません。

それぞれの目安量は、引用した図にもあるので参考になさってください。また、妊娠前から妊娠中にかけての食生活のポイントについては、国立健康・栄養研究所のHP(https://www.nibiohn.go.jp/eiken/ninsanpu/index.html)でも詳しく解説されていますので、チェックしてみてくださいね。


Mimosa代表 杉山伸子

 10年を超える産婦人科医としての臨床経験を通じて、女性がより健康で幸せな生活を送るためには、女性の健康リテラシーの向上が大切だと考えるようになりました。
その実現を目指し、女性の健康に関する情報提供・教育・相談を行う団体として、Mimosaを立ち上げました。
共に活動しているメンバーは、今までの職場で出逢った信頼できる女性医療のプロばかりです。