2020.9月号 ドクターコラム
「リプロ」のプロ集団Mimosa代表の産婦人科医、杉山伸子です。
このコラムでは、リプロダクティブへルス(略して「リプロ」)に特化した情報を皆さんにお届けしています。
先天性サイトメガロウイルス感染症を知っていますか?
産婦人科医 Mimosa代表 杉山伸子
新型コロナウイルス感染症の最新情報:赤ちゃんへの影響は?
新型コロナウイルスの累計感染者数(検査で陽性と判定された数)が9月に入って7万人を超えました。現時点では特異的な治療方法やワクチンはなく、感染の終息には至っていません。
7月に発表された新型コロナウイルスの感染が確認された妊婦を対象にしたメタ解析(Turan O, Hakim A, Dashraath P et al. Clinical characteristics, prognostic factors, and maternal and neonatal outcomes of SARS-CoV-2 infection among hospitalized pregnant women: a systematic review. Int J Gynaecol Obstet. 2020 Jul 24)では、ほとんどの妊婦が軽症だったことや垂直感染(赤ちゃんへの感染)がなかったことが報告されています。
また、新型コロナウイルス感染症によると思われる奇形も報告されていません。過度な心配は必要ありませんが、引き続き感染予防を十分になさってください。
先天性サイトメガロウイルス感染症とは?
今回は、サイトメガロウイルスというウイルスの話題を提供します。
サイトメガロウイルスは、世界中のいたるところにいる、ありふれたウイルスで、母乳、唾液、尿や血液を介して、主に子供のうちに感染します。
日本では成人女性のおよそ70%がすでに感染し、抗体(免疫)を持っています。先天性サイトメガロウイルス感染症は、赤ちゃんが生まれてくる前にお母さんのお腹の中でサイトメガロウイルスに感染することで発病するものです。
感染したときに症状がほとんどないか、あっても風邪症状にとどまることが多いため、サイトメガロウイルス感染と気づくことはまずありません。健康な子どもや大人が感染しても全く問題ありません。
しかし、妊婦さんが初めて感染した場合、妊婦さんにほとんど症状がなくても、赤ちゃんにまで感染がおよぶことがあります。
感染した赤ちゃんには、流産・死産、脳や聴力に障がいが生じることがあります。
妊婦さんが感染した場合、そのうちの40%で赤ちゃんにも感染が及びます。そして、感染した赤ちゃんの10~30%に症状が出ると言われています。症状も障がいの重さも様々です。出生時に症状がなくても、成長するにつれて症状が出る場合もあります。
先天性サイトメガロウイルス感染症に効くお薬やワクチンはあるの?
現時点では、妊娠中に先天性サイトメガロウイルス感染症を予防したり治療したりする目的で使える薬がありません。
また、サイトメガロウイルスに対するワクチンもまだ開発されていません。
妊娠中に感染がわかっても治療ができないことから、妊娠中にサイトメガロウイルスの抗体スクリーニングは行われていません。
免疫を持たない妊婦さんの1%程度が感染すると言われていますが、誰もが感染するかもしれないと考えて、予防することが大切になります。
どこから感染するの?
サイトメガロウイルスは、感染すると尿や唾液などの体液に出てきます。
家庭内で母乳、尿や唾液を介してうつることが主な感染経路です。他には、性的接触や輸血による感染があります。
妊娠中に感染した女性の多くが、上のお子さんを含む周囲のお子さんの尿や唾液からうつっています。お子さんからウイルスをもらわないよう、おしっことよだれには十分注意しましょう。
妊娠中の感染を防ぐための注意したいこと
- お子さんにご飯を食べさせた後、おむつを替えた後、しっかりと手を洗いましょう。
- オモチャや家具についたお子さんの唾液は、きれいに拭き取りましょう。
- お子さんにご飯を食べさせるとき、お子さん専用のお箸やスプーンなどを使いましょう。
- 保育所などお子さんがたと接する機会の多い職場で働いている場合は、職場でも同様に気を付けましょう。
感染予防には、お父さんの理解と協力も必要です。ご家族で取り組みましょう。
感染が心配だというときには
まずは、かかりつけの産婦人科医に相談してみましょう。
先天性サイトメガロウイルス感染症については、国の母子感染の予防と診療に関する研究班によるサイト(http://cmvtoxo.umin.jp/public_01.html)に説明が掲載されています。
また、同サイトでは、先天性サイトメガロウイルス感染症に関する相談ができる施設も紹介されています。関西では、神戸大学医学部附属病院の産婦人科で相談できます。
参考文献:妊娠中のサイトメガロウイルス母子感染に注意しましょう(研究班によるパンフレット)
最後に
新型コロナウイルス以外にも、地球上には私たち人間が感染する可能性があるウイルスはたくさん存在します。
そして、その多くが適切な予防策をとれば感染を防ぐことができます。
手洗いは、標準的な感染予防策の基本となります。正しい感染予防を身につけ、これからの健康維持・増進につなげましょう。
Mimosa代表 杉山伸子
10年を超える産婦人科医としての臨床経験を通じて、女性がより健康で幸せな生活を送るためには、女性の健康リテラシーの向上が大切だと考えるようになりました。
その実現を目指し、女性の健康に関する情報提供・教育・相談を行う団体として、Mimosaを立ち上げました。
共に活動しているメンバーは、今までの職場で出逢った信頼できる女性医療のプロばかりです。