36. 2021.3月号 ドクターコラム

2021.3月号 ドクターコラム

産婦人科医 Mimimosa代表 杉山伸子


「リプロ」のプロ集団Mimosa代表の産婦人科医、杉山伸子です。

このコラムでは、リプロダクティブへルス(略して「リプロ」)に特化した情報を皆さんにお届けしています。


花粉症や食物アレルギーなどのアレルギー疾患に悩む人は少なくありません。中でも、食物アレルギーは1才未満の乳児で最も多く発症します。

今回は、お子さんの食物アレルギーを中心としたアレルギー性疾患の予防について、妊娠中の注意も併せてご紹介します。

《小児の食物アレルギーについて》

食物アレルギーは、乳児期に最もよく見られるアレルギー性疾患で、年齢があがるにつれて減っていきます。日本では、食物アレルギーの主要原因食物は鶏卵、牛乳、小麦となっていて、この3つで全体の7割を占めています。

症状としては、原因となる食品を食べると皮膚が赤くなったりじんましんができたりする皮膚症状が最も多く、およそ9割に認められます。ショック症状も10%ほど認められます。

乳幼児期に食物アレルギーを発症したお子さんは、その後、喘息やアレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎などを起こしやすく、いわゆる「アレルギーマーチ」をたどるリスクが高いと言われています。

《妊娠中・授乳中の食事》

妊娠中や授乳中に、「何を食べたらいいのか」「何を避けた方がいいのか」気になりますよね。

現在のところ、お子さんのアレルギー疾患の発症予防を目的として、すべての妊婦に摂取することをお勧めできるような食事はありません。

一方で、卵など食物アレルギーになりやすいものを妊娠中や授乳中に避ける必要もありません。むしろ、食事制限が過ぎると赤ちゃんの発育に悪影響を及ぼすことがあります。バランスのよい食事を心がけましょう。

アレルギー発症予防に関する食品や栄養素について、最近の知見をご紹介しておきます。いずれも、すべての妊婦さんに勧められるほどエビデンスがしっかりしているわけではありません。過剰な摂取は避け、バランスのよい食事の中で取り入れるようにしましょう。

・プロバイオティクス

妊娠中や授乳中に、プロバイオティクス(ヨーグルトに含まれる乳酸菌など)を摂取すると、お子さんのアトピー性皮膚炎の発症を予防するという報告があります。ただし、食物アレルギーの発症を予防するとまでは言われていません。

・ビタミンD

アレルギー性疾患の発症にビタミンD欠乏が関係しているのではないかと考えられています。ビタミンDの摂取によってお子さんのアレルギー性疾患の発症を予防できる可能性があります。

・多価不飽和脂肪酸

魚油などに含まれる多価不飽和脂肪酸も、妊娠中の摂取でお子さんのアレルギー性疾患を予防できる可能性があります。

《受動喫煙も含めて禁煙を》

妊娠中の喫煙は、お子さんの喘息発症に関係していることが知られています。お母さんが吸わなくても同居するご家族が喫煙しているなどの受動喫煙でも、その影響があるとされています。

アレルギー性疾患以外にも早産や胎児発育不全などの悪栄養を及ぼすことが多いので、禁煙するようにしましょう。

《母乳や離乳食》

母乳には多くのメリットがありますが、アレルギー性疾患の予防に関して完全母乳の方がよいというエビデンスはありません。食物アレルギーを予防するために母乳にこだわる必要はありません。

離乳食の開始を遅らせても、食物アレルギーの予防にはつながりません。生後5~6か月で開始しましょう。

食物アレルギーと診断されたお子さんに授乳している場合、お母さんの食物除去が必要になることがあります。ただ、お子さんの湿疹が上手に管理されていれば食物除去が必要なことは少なく、必要な場合にも短期で解除できることが多いようです。食物除去が必要かどうか、主治医に確認してみましょう。

《赤ちゃんのスキンケア》

生後すぐからの保湿剤によるスキンケアは、アトピー性皮膚炎の予防に効果的であることが分かってきました。特に、生まれつき肌が乾燥しやすいお子さんには効果がありそうです。

湿疹やアトピー性皮膚炎があるお子さんの方が食物アレルギーにもなりやすいので、湿疹がある場合には保湿ケアに加えて適切な治療を行って湿疹がひどくならないようにしましょう。

《ペットの飼育》

動物と接触することでアレルギー症状が出る可能性があります。今までアレルギーがなかった人も、新たに飼育することで感作されることがあります。アレルギーになりやすい人は、犬や猫、ハムスターなどの毛があるペットの飼育は避ける方がよいかもしれません。

《食物アレルギーを疑ったら》

専門の医療機関を受診することをお勧めします。食物経口負荷試験(アレルゲンとなる食品を摂取して症状の有無を確認する検査)を実施してくれる施設が良いでしょう。

血液検査だけで食物アレルギーと診断されている場合、実際には不必要な食物除去を指示されてしまうこともあります。食物経口負荷試験を行うと、的確な診断を受けられるだけでなく安全に摂取できる量を知ることができます。

食物アレルギーの対処法の基本は、「必要最小限の食物除去」です。食物アレルギーは徐々に耐性ができていくことが多いため、適宜食べられる範囲を確認してもらって食生活の幅を広げていくことを目指しましょう。

食物除去によって、必要な栄養素が不足することもあります。牛乳を摂取できない場合にはカルシウム強化食品も活用するなど、他の食品で補完するように工夫してみましょう。

食物アレルギーに対する食物除去は、診断を受けてからで問題ありません。妊娠中や授乳中は、特定の食品を過剰に摂ったり避けたりせず、バランスのよい食事を心がけてください。

《参考文献》

「食物アレルギー診療ガイドライン2016《2018年改訂版》」監修:海老澤元宏/伊藤浩明/藤澤隆夫(株式会社協和企画)


Mimosa代表 杉山伸子

 10年を超える産婦人科医としての臨床経験を通じて、女性がより健康で幸せな生活を送るためには、女性の健康リテラシーの向上が大切だと考えるようになりました。
その実現を目指し、女性の健康に関する情報提供・教育・相談を行う団体として、Mimosaを立ち上げました。
共に活動しているメンバーは、今までの職場で出逢った信頼できる女性医療のプロばかりです。