2022.1月号 ドクターコラム
「リプロ」のプロ集団Mimosa代表の産婦人科医、杉山伸子です。
このコラムでは、リプロダクティブへルス(略して「リプロ」)に特化した情報を皆さんにお届けしています。
今回は、10年ほど前に診察したA子さん(14歳)の話をご紹介します。
A子さんが私の外来を受診した理由は、「月経痛がひどくて、学校を休んでしまう」というものでした。
初経時(12歳)から月経痛がひどく、3日間ほど学校を休むことがあると言います。市販の鎮痛剤を服用したら吐き気が出たため、小児科を受診し、解熱鎮痛剤を処方されたそうです。ところが、そのお薬を飲んでも2時間しか効果が続かないうえに、身体が寒くなるので困るということでした。
今でこそ、女子中学生に対してもホルモン剤(低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬)をよく処方していますが、当時は月経痛に対するホルモン剤が販売されるようになってまだ3年しか経っておらず、お子さんに処方することはほとんどありませんでした。
そこで、漢方薬の出番です。
お腹の上から超音波検査を行い、子宮や卵巣に明らかな病気がないことを確認したうえで、月経の時期に「当帰建中湯(とうきけんちゅうとう)」という漢方薬と別の鎮痛剤を定期的に服用するようにA子さんにお話ししました。
月経後に受診されたA子さんは、当帰建中湯を服用したら月経時の痛みが軽くなり、鎮痛剤はほとんど服用せずに済んだと話してくれました。そこで、当帰建中湯だけを追加で処方しました。2か月後に来られたA子さんは、これからも当帰建中湯を続けて服用していきたい、と笑顔を見せてくれました。
実はA子さんは、一人で診察室に入ってきました。病院に来て問診票を書くところまでは付き添いの大人と一緒だったようですが、自分の症状や困っていること、お薬を飲んでからの変化をご自分で私に説明してくれました。
なぜ、一人で入ってきたのか。
それは、付き添って来られたのがお父様だったからかもしれません。A子さんの家庭は父子家庭でした。自分の父親に生理に関する困りごとを伝えて受診につなげたA子さんに、私はとても感心したことを今でもよく覚えています。
A子さんのお話を紹介したのは、以下のことをお伝えしたかったからです。
①お子さんの月経に関するトラブルは、産婦人科で相談しましょう。
基本的に、お子さんに対して内診を行うことはありません。腹部超音波検査をすることもありますが、お話だけでお薬を出すことも可能です。
月経痛の治療に最も詳しいのは、やはり産婦人科医です。小児科ではなく産婦人科で相談した方が、お子さんに一番適した治療を選ぶことができるでしょう。
②月経に関する悩みを抱えているお子さんは少なくありません。
しかし、すべてのお子さんがA子さんのように大人に伝えられるわけではありません。ひとりで我慢しているお子さんもいるかもしれません。月経に関する悩みがないか、お子さんの様子を気にかけてみましょう。
そして、お子さんの月経に関するトラブルを特別視することなく、産婦人科にご相談ください。
③お子さんが持つ、自分の身体の症状や不調を伝える力を信じ、支援しましょう。
私は、子どもでも自分の身体の症状や不調を他人に伝えたり、治療に関して自分の意思を示したりできるということをA子さんに学びました。現在も、お子さんを診察する際には、お子さん自身の訴えを可能な限りお子さんから聴きたいと考えています。
医療者だけでなく保護者の方も、お子さん自身の訴えや意思、希望を尊重できる環境を整えましょう。
最後に、「ヘルスリテラシー」という言葉をご紹介しておきましょう。
ヘルスリテラシーとは、「健康情報を入手し、理解し、評価し、活用するための知識、意欲、能力であり、それによって、日常生活におけるヘルスケア、疾病予防、ヘルスプロモーションについて判断したり意思決定をしたりして、生涯を通じて生活の質を維持・向上させることができるもの」*と定義されています。
自分の身体の症状や不調を伝える力は、このヘルスリテラシーの一部をなします。お子さんの頃から、自分の身体の状態について話す練習を繰り返しておけば、ヘルスリテラシーの向上につながり、最終的に健康的な人生をもたらしてくれます。
*「ヘルスリテラシー 健康を決める力」より引用https://www.healthliteracy.jp/kenkou/post_20.html
Mimosa代表 杉山伸子
10年を超える産婦人科医としての臨床経験を通じて、女性がより健康で幸せな生活を送るためには、女性の健康リテラシーの向上が大切だと考えるようになりました。
その実現を目指し、女性の健康に関する情報提供・教育・相談を行う団体として、Mimosaを立ち上げました。
共に活動しているメンバーは、今までの職場で出逢った信頼できる女性医療のプロばかりです。