60. 2022.3月号 ドクターコラム


2022.3月号 ドクターコラム

「リプロ」のプロ集団Mimosa代表の産婦人科医、杉山伸子です。

このコラムでは、リプロダクティブ・へルス(略して「リプロ」)に特化した情報を皆さんにお届けしています。

今回は、小さなお子さんの産婦人科受診についてお伝えしましょう。ここで言う小さなお子さんとは、小学校低学年までの女子です。


小さなお子さんが産婦人科を受診する理由には、私の経験からの印象ですが、多い順に①外陰部のかゆみ②おりもの③外陰部の外傷があります。

昨年診察した小学生のB子さんも、外陰部のかゆみと腫れがあって来院されました。

B子さんは、来院される前日からかゆみがあり、夜には外陰部が大きく腫れてしまい、お母さんが救急外来に連れて行ったそうです。塗り薬をもらったうえで、「念のために、明日には産婦人科を受診してください」と言われたとのことでした。

お薬の効果もあったのか、受診した時点では腫れはおさまっているようでしたが、診察することになりました。

「それでは、そのベッドに横になって、見せてもらえますか?」と言うと、B子さんは気乗りしない様子です。お母さんが「はやく下着を脱ぎなさい」とせかしても、ベッドの上でもじもじしています。

以前の私なら、「ごめんね~」と言いながら、下着をおろしていたかもしれません。しかし、リプロダクティブ・ヘルス&ライツ(性と生殖に関する健康&権利)について学ぶようになった今は、違います。

「B子ちゃんがかゆくて腫れていた場所にお病気がないか調べたいんだけど、見せてもらえるかな?」と彼女の目を見ながら問いかけてみました。

しばらくの沈黙の後、B子さんは小さくうなずいて、自ら下着をおろしてくれました。

以前ご紹介した「性的同意(性に関する行為について同意すること)」は、産婦人科の診察では非常に重要です。そして、小さなお子さんのように自分の意思を表すことが容易ではない場合も同様です。医療従事者は当然ですが、保護者の方にもお子さんの「性的同意」を大切にしていただきたいと考えています。

それは、なぜか。お子さんを性被害や虐待から守るためです。

嫌だと思った時に「いや」と言うことは、「性的同意」における大切な柱のひとつです*。お子さんがしっかりと身につけるためには、診察を受ける時にも実践しなくてはなりません。

(*もうひとつの柱は、性に関する行為をする時は相手に「してもいい?」と聞くことです。)

さて、最初にご紹介した3つの受診理由について、少し解説しておきましょう。

①外陰部のかゆみ。

外陰部のかゆみは、接触皮膚炎やカンジダという真菌感染が原因で起こります。かゆみは、市販のかゆみ止めでもおさまります。ただ、原因が残っていると症状がなかなかおさまりにくいかもしれません。かゆみが長引いたり、ひどくなったり、かゆい範囲が広がったりする場合には、受診しましょう。産婦人科では、原因を可能な限り調べ、原因に応じた薬剤で対応します。

②おりもの。

月経が始まる頃にはおりものが出るようになります。しかし、胸のふくらみなどの第二次性徴が現れる前におりものがたくさん出る場合は、何らかの異常と考えた方がいいかもしれません。

多くの場合が、腟に雑菌が入ることで起こります。腟は肛門と近い場所にあるため、便に含まれる雑菌が腟に移動して増えることがあるのです。下痢をした後などに起こりやすいかもしれません。

大人の場合には、腟の中に入れる抗菌薬を用いて治療しますが、お子さんの場合には腟に入れる薬を使うことはまずありません。腟の自浄作用を期待して治療せずに様子を見るか、塗り薬で対応することが多いでしょう。

便から雑菌が入り込むことを防ぐために、お尻を拭くときは、前から後ろの向きで拭くように教えておきましょう。

③外陰部の外傷。

珍しいことではありますが、お子さんが外陰部を怪我することがあります。

たとえば、自転車を立ちこぎしようとしたら、ペダルから足を滑らせてサドルで股を強打したというお子さんを診察したことがあります。幸い、出血が止まっていたので、縫合などの処置は必要なく済みました。

お風呂場のおもちゃや風呂桶に誤って乗っかってしまったり、プールのジェット水流が外陰部を直撃したり、想定していなかったような場面での事例も報告されています。小さなお子さんの外陰部は診察自体も困難であり、診察・縫合などの処置をする場合には鎮静や麻酔が必要になることもあります。

怪我するような事故は、あらかじめ予防することが肝心です。日本小児科学会のホームページでは、一般の皆さまへ TOP|公益社団法人 日本小児科学会 JAPAN PEDIATRIC SOCIETY (jpeds.or.jp)内に、子どもに関する事故の報告一覧が掲載されています。お子さんが思わぬ怪我をするのはどんな場面なのか、参考になさってください。

Mimosa代表 杉山伸子

 10年を超える産婦人科医としての臨床経験を通じて、女性がより健康で幸せな生活を送るためには、女性の健康リテラシーの向上が大切だと考えるようになりました。
その実現を目指し、女性の健康に関する情報提供・教育・相談を行う団体として、Mimosaを立ち上げました。
共に活動しているメンバーは、今までの職場で出逢った信頼できる女性医療のプロばかりです。

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