64.2022.5月号 ドクターコラム


2022.5月号 ドクターコラム

「リプロ」のプロ集団Mimosa代表の産婦人科医、杉山伸子です。

このコラムでは、リプロダクティブ・へルス(略して「リプロ」)に特化した情報を皆さんにお届けしています。


5月になりました。皆さんや皆さんの周りで、「五月病かも?」という不調を抱えている人はいませんか。

五月病とは、新入社員や人事異動など環境変化のあった人が、新しい環境への適応がうまくいかず、なんとなく体調が悪い、やる気が出ないなど心身に不調があらわれる状況をさします。五月病は正式な病名ではありませんが、医学的に「適応障害」や「抑うつ状態」と関連していると考えられています。(「こころの耳」のサイトより引用:https://kokoro.mhlw.go.jp/column/sea05/)

ここまで読んで、「リプロと五月病って関係するの?」と思われた方がいらっしゃるかもしれません。答えは、「YES」です。

職場などの環境変化をきっかけに体調を崩して、「月経が来ない」「動悸と肩こりがひどくなった、更年期かも?」と心配して受診される方が少なくありません。ただ、月経が来なくなって数か月してから産婦人科を受診する場合が多いので、実際に診察をするのは7~9月ごろでしょうか。

C子さんが受診されたのも、夏が終わった頃でした。4月から進学したため、生活環境が一気に変わりました。親元を離れて、一人暮らしも始めたそうです。「気がついたら、最近生理が来ていなくて」とのことでした。

お話を聴くと、五月病のような症状で困ったことはありませんでしたが、5月ごろから月経が不順になったそうです。月経がなければないで、月経痛などの煩わしさもないため、すぐに受診しようとは思わなかったようです。

ホルモン剤の治療で月経が再開し、その後はおおむね順調に来るようになりました。

40代半ばのD子さんは、1週間ほど前から動悸を自覚するようになり、「更年期かも?」と不安げな表情で受診されました。4月から職場が変わったそうです。受診されたのはそれからちょうど1ヶ月程度、まさに五月病の時期でした。

今までずっと健康だったのに、2月に受けた人間ドックで異常を指摘されたこともあり、更年期障害の症状かと心配になったそうです。

月経は順調であり、動悸以外に更年期に見られるような症状もなく、ホルモン値も正常範囲内であったため、更年期障害ではありませんでした。環境の変化によってストレスや疲れがたまり、動悸という症状として現れたのでしょう。

D子さんには、「気分が落ち込みそうになったり、ストレスを感じたりした時のために、気分転換やストレス発散の方法をいくつか見つけておきましょう」と提案しました。すると、「なるほど。いろいろな気分転換法を考えておくといいんですね。ありがとうございます」と言われ、初めて笑顔を見せてくれました。

五月病になるのは、大人だけとは限りません。初めての保育園や幼稚園、学校などに通い始めたお子さんにとっても、通園・通学とは、今までに経験したことがないような大きな変化と言えるでしょう。不安と期待が入り混じり、私たちが想像する以上に強い緊張を感じているかもしれません。

そして、お子さん自身は感じているストレスに気づかないまま、身体に症状が出てくることもあるでしょう。眠れない、お腹が痛い、食欲がない、ぼーっとする、イライラする、疲れやすいなど、今までとは違った様子がないか、気にかけるようにしましょう。

気分転換の方法をいくつか見つけておくのは、お子さんにも役立つ対処法です。外でできるもの、家の中でできるもの、一人でできること、誰かと一緒にできること、身体を動かすもの、静かにするものなど、いくつか候補があれば、お子さんの状況に合わせて使い分けることができます。

いろいろな方法で気分転換をしながら、少しずつ新しい環境に慣れるようにしていきましょう。無理や焦りは禁物です。お子さんがどう感じているのか、ゆっくり話を聴いてあげることもよいでしょう。

また、学校やスクールカウンセラー、自治体などの相談窓口、医療機関など、相談できる場所は一つではないということも知っておいてください。お子さんやご自身の必要に応じて、早めに相談してみましょう。話を聴いてもらうだけで楽になることもありますよ。


Mimosa代表 杉山伸子

 10年を超える産婦人科医としての臨床経験を通じて、女性がより健康で幸せな生活を送るためには、女性の健康リテラシーの向上が大切だと考えるようになりました。
その実現を目指し、女性の健康に関する情報提供・教育・相談を行う団体として、Mimosaを立ち上げました。
共に活動しているメンバーは、今までの職場で出逢った信頼できる女性医療のプロばかりです。