2022.7月号 ドクターコラム
「リプロ」のプロ集団Mimosa代表の産婦人科医、杉山伸子です。
このコラムでは、リプロダクティブ・へルス(略して「リプロ」)に特化した情報を皆さんにお届けしています。
E子さんは、20歳。お母さまと一緒に来院し、「月経時が本当につらいので、何とかしたい」と、か細い声で言われました。
私が鎮痛剤で痛みを和らげる方法、ピルで月経をコントロールする方法、漢方薬を服用する方法などを説明したところ、ピルの服用を希望されました。どうやら、あらかじめ自分でいろいろ調べてきていたようです。
そのうえで、お母さま抜きで相談したいことがあるとのことで、お母さまが退席されました。
E子さんによると、月経痛がつらかったのはずっと前からだったそうです。産婦人科を受診したいと何度か訴えたがなかなか受診させてもらえず、今回やっと受診できたとのことでした。ご両親との関係がうまくいっておらず、精神的に大きなストレスを抱えているようでした。
「バイトを始めたが、月経痛がつらいと休まざるを得ない。早く自立するためにもしっかり働きたいので、月経痛を軽くしたい」と言われました。
私は、秘密を守ることを約束し、今回の受診につなげられたことをねぎらいました。そして、「独りでつらい思いをしなくていいよ。私たちを頼っていいんだよ」とお伝えしました。
再度お母さまにも診察室に入っていただき、改めて説明をしたうえでピルを処方しました。最初はピルの服用に懐疑的なご様子でしたが、納得していただけました。
その後も処方を続けていますが、E子さんは月経痛が軽くなったと報告してくれました。ピルによる月経のコントロールが、E子さんの「自立」への一歩となることを願っています。
今回、このコラムで「自立」を取り上げたのは、「リプロ」の実現に深く関係しているからです。
たとえば、性器を含む自分のからだを清潔に保つこと。これは、生活面の自立によるものです。また、思春期を迎える頃には、月経や射精への対処法も知っておいてほしいですよね。
それだけではありません。相手との適切な距離を保つこと、相手を尊重することも大切です。これらの精神的な自立がないと、特定の相手に過剰に依存し、望まない性行為につながりやすくなるなどのリスクが生じます。
つまり、お子さんが大人になっていくためには、経済的社会的に自立するだけではなく、もっと広い意味での「自立」が必要であり、それはお子さん自身の性と生殖に関する健康や権利を守るためにも重要なのです。
当事者研究がご専門の熊谷晋一郎先生は、「自立とは依存先を増やすこと」とおっしゃっています。自立の対義語は依存ではない、さまざまな人やもの・制度に依存できることが自立なのだと。
一方で、DVや性暴力を受けた被害者にアンケートをとると、親や教師にはもちろんのこと、誰にも打ち明けられなかった、相談できなかったという回答が圧倒的に多いのが現状です。私たちは、まだまだ「頼ること」が難しい社会に生きているのです。子どもたちに「依存先を増やしなさい」と伝えるだけではなく、「依存しやすい社会をつくる」責任が私たち大人にあるのだと私は考えています。
では、子どもの自立を支援するためには、どうすればいいのでしょうか。ここでは、ご家庭での性教育に関連したものをいくつかご紹介しましょう。
- お子さんから性的な質問を受けた時は、しっかり受け止めて答えましょう。どう答えてよいかわからなかったら、「わからないから調べておくわ」と答え、答え方を含めて調べてみましょう。「命育(https://meiiku.com/)」などのサイトが役に立つかもしれません。
- 思春期以降のお子さんの場合、性に関してお互いに話しづらいということもあるでしょう。その場合には、参考にするとよい情報源を教えるのも一つの方法です。依存先を増やすことにつながります。「#つながるBOOK(https://www.jfpa.or.jp/tsunagarubook/)」や「セイシル(https://seicil.com/)」などのサイトがおススメです。
- 質問や相談を受けた時に時間がない場合には、別の時間を設けるようにしましょう。曖昧にしてしまったり、適当にあしらってしまったりすると、お子さんが質問や相談をしてはいけないものだと受け止めてしまうかもしれません。
- 質問や相談に対する答えの最後には、「他に知りたいことはある?」「困ったら、相談してね」といった声がけをしましょう。次につなげることができます。
- お子さんのことを否定せず、お子さん自身のお話を聴きましょう。ただし、ご自身の意見と異なる場合に同意する必要はありません。ご自身の考えをきちんと伝えましょう。
コロナ禍が長引き、子育て環境も閉塞的になりがちです。保護者であるあなた自身も、依存先を増やすようになさってください。ご家族や友人だけではなく、医療機関、自治体、民間団体など、いろいろなところに少しずつ依存することがバランスよく自立するためのポイントです。
この「ナガイク」アプリにも、そんなあなたにピッタリの情報が満載です。チェックしてみてくださいね。
Mimosa代表 杉山伸子
10年を超える産婦人科医としての臨床経験を通じて、女性がより健康で幸せな生活を送るためには、女性の健康リテラシーの向上が大切だと考えるようになりました。
その実現を目指し、女性の健康に関する情報提供・教育・相談を行う団体として、Mimosaを立ち上げました。
共に活動しているメンバーは、今までの職場で出逢った信頼できる女性医療のプロばかりです。