2022.9月号「性教育について」
「リプロ」のプロ集団Mimosa代表の産婦人科医、杉山伸子です。
このコラムでは、リプロダクティブ・へルス(略して「リプロ」)に特化した情報を皆さんにお届けしています。
少し前の話になりますが、夏休み期間中に小学校低学年のお子さんを対象に性教育の講座をする機会をいただきました。新型コロナウイルス感染症第7波の影響もあって、少人数での開催になりましたが、お子さんたちの反応も良くとても有意義な講座になりました。
今回は、その講座でどんな話をしたのかご紹介します。
- 生まれたばかりの赤ちゃんの大きさは?
赤ちゃんに対するイメージは、そのお子さんの置かれた状況によっても大きく異なります。弟や妹がいるお子さんは、その成長ぶりを知っているかもしれません。身近に自分より小さな子どもがいないと、自分ももっと小さなころがあったとまでは想像できても、具体的な大きさをイメージするのは難しいようです。
今回の講座では、生まれたばかりの赤ちゃんの大きさ・重さを再現したお人形を抱っこすることで、赤ちゃんのイメージをつかんでもらいました。
だいたい50cm、だいたい3kg。小学校2年生になると長さや重さの単位も学びます。500mlのペットボトルだと5~6本の重さ、などと説明すればもっと小さなお子さんでもイメージがわくでしょう。
- いのちのはじまりは?
いよいよ本題に入っていきます。
生まれてくるときは3kgくらいの赤ちゃんのスタートは、もっともっと小さいというお話です。
「受精卵(じゅせいらん)」、すこし難しい言葉をあえて提示しました。写真もお見せします。そして、この細胞が髪の毛の太さ3本分くらいの非常に小さなものであることも説明しました。
「みんなも最初は、点みたいに小さな細胞から始まったんだよ~」と言うと、驚きの声があがりました。
- 受精卵は、どうやって赤ちゃんになるの?
受精卵がお母さんのからだの中にある子宮というところで育ち、赤ちゃんとなって生まれてくることもお話ししました。
妊娠に関する解説に続けて「子宮はどこにあるのかな?」「赤ちゃんはどこから生まれてくるのかな?」と質問をしながら話を進めます。
「赤ちゃんはおまたの間から生まれてきます」と説明すると、「わぁ」と驚いている様子のお子さんもいましたが、意外にすんなりと受け入れてくれるものです。
- からだの中でいのちにつながるところは?
まず、生きていくために必要なからだのパーツについてお話ししました。心臓、肺、胃、…。どんなものかどこにあるかは知らなくても、呼吸をすることやご飯を食べることとの関連を説明すると「大切なところなんだな」と理解してもらえます。
これらの臓器がいつも働き続けていることに感謝(つまり、自分のからだに感謝)したうえで、「いのちにつながる」を「いのちをつなげる」へと話を広げていきます。
すなわち、新しいいのちを育てるために必要なからだのパーツがあることを伝えます。受精卵のもとになる精子や卵子をつくる精巣や卵巣、子宮といった臓器もからだの中にあるというお話をします。
性器も心臓や肺などと同じ大切な臓器であるということを、恥ずかしいとかいやらしいというイメージの前に知っておいてほしい。その想いもあって、心臓や肺、胃、脳などと一緒に紹介してみました。
そして、新しいいのちにつながる大切なからだのパーツとして、プライベートゾーンについて説明します。プライベートゾーンには、胸や性器、お尻などが該当することを人形などで示しながらお話していきます。
- からだを大切にするってどういうこと?
この質問に対して、「けがをしない」「交通事故にあわない」などなど、からだを守るために必要なことと認識していることを次々に挙げてくれました。
続いて、私からは、次の3つを提案しました。
- きれいにする
- よく食べる、よく眠る
- あぶないものから守る
そのうえで、プライベートゾーンを守る方法もお伝えしました。
- 「してもいい?」と相手に聞く
- 「いいよ」「だめ」と相手に自分の気持ち・意思を伝える
- 嫌だと思ったら逃げる
最後は、男・女、大人・子どもでちがうところをたくさん挙げてもらったうえで、それぞれの違いを超えたところで同じことがあるとお話ししました。
それは、みんなが大切な人であること。
だから、みんなが大切にされるために、プライベートゾーンは自分だけでなくお友だちも同じように守られなくてはいけないよ、と話を締めくくりました。
お子さんに性についてどのように伝えればいいのか、教えればいいのか。戸惑っている方は少なくないでしょう。それは当然のことです。なぜなら、私たち大人も、子どもの頃から今まで性教育をきちんと受けてきたわけではないのですから。
また、「性教育」と聞くと、月経や精通、妊娠や性感染症など生殖に関する「性」的なイメージが先行して、親子でフランクに話すのが難しく感じられるかもしれません。
私自身も、産婦人科医として、望まない妊娠や性感染症、性被害で苦しむ女性を減らしたいと考え、「性と生殖(妊娠・出産)」を中心に据えた性教育を始めました。しかし、今では「性」よりも大切なものがあると感じています。それは、「人権」です。「性」を大切に扱うことは、「いのち」を大切にすることであり、「人権」を尊重することでもあります。その視点に立って、お子さんの人権を尊重して守れるような性教育を実践したいと考えています。
ご家庭で「性」について話すのが難しいと感じる方も、「いのちを大切にする」「からだを大切にする」というところから始めてみてはいかがでしょうか。お子さんといのちやからだについて話すことに慣れてきてから、少しずつ「性」の話もしてみましょう。性教育のために書かれた書籍などを使って、お子さんと一緒に学ぶという姿勢で取り組んでみましょう。少しずつ繰り返せば、お子さんにもしっかり伝わっていきますよ。
Mimosa代表 杉山伸子
10年を超える産婦人科医としての臨床経験を通じて、女性がより健康で幸せな生活を送るためには、女性の健康リテラシーの向上が大切だと考えるようになりました。
その実現を目指し、女性の健康に関する情報提供・教育・相談を行う団体として、Mimosaを立ち上げました。
共に活動しているメンバーは、今までの職場で出逢った信頼できる女性医療のプロばかりです。