84.2023.3月号 ドクターコラム


2023.3月号 ドクターコラム

「リプロ」のプロ集団Mimosa代表の産婦人科医、杉山伸子です。

このコラムでは、リプロダクティブ・へルス(略して「リプロ」)に特化した情報を皆さんにお届けしています。

新型コロナウイルス感染症は、今年5月に感染症法上の位置づけが5類感染症へと変わります。この「5類感染症」とはどんなものでしょうか。国が感染症発生動向調査を行い、その結果に基づき必要な情報を国民や医療関係者などに提供・公開していくことによって、発生・拡大を防止するべき感染症とされています。たとえば、インフルエンザや後天性免疫不全症候群(AIDS)、梅毒や麻疹などがそれに相当します。

今回は、5類感染症のひとつである風疹(ふうしん)についてご紹介しましょう。

風疹とは、発熱、発疹、リンパ節腫脹を特徴とするウイルスによる感染症です。感染しても無症状のこともあれば、高熱や脳炎を起こすこともあります。特に注意が必要なのは、妊娠中の感染です。風疹に感受性のある妊娠20週頃までの妊婦さんが風疹ウイルスに感染すると、生まれてくる赤ちゃんが先天性風疹症候群を発症する可能性があります。

先天性風疹症候群とは、先天性心疾患・難聴・白内障などの症状が特徴的で、他にも肝臓の腫れや発育遅滞などの症状が出ることがあります。

日本では、2013年に風疹が流行し、14,344人の報告がありました。先天性風疹症候群の報告数も2013年に32例、2014年に9例と急激に増えました。当時の妊婦さんの配偶者の多くは、子どもの頃ワクチン接種の対象となっていない世代でした。風疹の流行も、この世代の男性を中心に広がっていたのです。

その後、風疹の発生数は自然と減少傾向に転じました。しかし、新型コロナ感染症が流行する前の2018~2019年に、風疹が再び流行していたのをご存じですか。2018年には2,941人、2019年には2,298人の報告がありました。この流行に伴い、2019~2021年に6例の先天性風疹症候群が報告されています。

新型コロナウイルス感染症の対策を行うようになった2020年以降、風疹の報告数は激減しています。風疹ウイルスは、新型コロナウイルスと同様に飛沫感染で感染するため、マスクや手洗いなどの感染対策が有効だったからと考えられます。ただし、報告数がゼロという訳ではありません。2022年の累積報告数は15人です。

今後、新型コロナ感染症が5類感染症と位置づけられ、マスクの着用は個人の判断に任されることになります。再び風疹が流行する可能性は十分に考えられます。妊娠中のご家族がいる方、これから妊娠を考えている方やそのご家族の皆さん、流行が起こってしまう前に風疹対策をしておきませんか。

《その1・妊娠前にワクチンを》

H子さんは、現在妊娠を希望されています。当院を受診した際、妊娠に向けた検査の一環として風疹抗体のチェックも希望されました。

H子さんの住む地域では、妊娠を希望する女性は風疹抗体の検査やワクチン接種に関する費用の助成を受けることができます。検査の結果、抗体価が低かったため、ワクチンを接種することにしました。妊娠中のワクチン接種は推奨されていないため、2ヶ月ほど避妊が必要です。

神戸市でも、接種日現在で神戸市に住民登録があり、かつ、風疹の抗体価が低く、下記の(1)~(3)のいずれかに該当する方は助成を受けることができます。

(1)妊娠を希望する15歳以上43歳未満の女性

(2)(1)の同居者

(3)風疹の抗体価が低い妊婦の同居者

神戸市では、風疹の罹患歴がなく、かつ、ワクチンの接種歴がない場合は、抗体検査をしなくても「風疹の抗体価が低い」とみなされます。

詳しくは、お近くの医療機関に相談するか、神戸市健康局保健課にお問い合わせください。

《その2・妊婦さんの家族がワクチンを》

I子さんは、妊婦健診の初期検査の結果、風疹抗体の値が低いことがわかりました。そこで、I子さんのパートナーに風疹抗体の検査を受けることをお勧めしました。もし、抗体価が低い場合には、ワクチン接種も行う予定です。パートナーだけではなく、同居されている他のご家族も接種を検討するのが理想的です。

《その3・おじさま方もワクチンを》

2013~2014年の風疹流行の中心となったのは、子どもの頃風疹ワクチンを接種する機会がなかった男性たちです。厚生労働省は、1962年4月2日~1979年4月1日に生まれた男性に対して、2019年に風疹抗体検査を受けられるクーポンを配布しました。抗体検査で値が低い場合には、ワクチン接種も無料で行えます。

しかし、新型コロナ感染症の流行もあり、この抗体検査の受診やワクチン接種が思うように進んでいません。そのため、対策期間を2024年度まで延長し、まだ受診していない人にはクーポンを再度送付する予定に変更されています。

対象となる男性は、読者のお父様世代かもしれません。お孫さんを先天性風疹症候群から守るためにも、抗体検査と必要ならワクチン接種を受けていただくようお願いしてくださいね。

《参考》

厚生労働省の風疹に関するページは、風しんについて|厚生労働省 (mhlw.go.jp)

神戸市の風疹の追加的対策に関するページは、神戸市:風しんの追加的対策について (kobe.lg.jp)

神戸市の風疹ワクチンの助成に関するページは、神戸市:風しん予防接種の助成について (kobe.lg.jp)


Mimosa代表 杉山伸子

 10年を超える産婦人科医としての臨床経験を通じて、女性がより健康で幸せな生活を送るためには、女性の健康リテラシーの向上が大切だと考えるようになりました。
その実現を目指し、女性の健康に関する情報提供・教育・相談を行う団体として、Mimosaを立ち上げました。
共に活動しているメンバーは、今までの職場で出逢った信頼できる女性医療のプロばかりです。