2023.7月号 ドクターコラム
「リプロ」のプロ集団Mimosa代表の産婦人科医、杉山伸子です。
このコラムでは、リプロダクティブ・へルス(略して「リプロ」)に特化した情報を皆さんにお届けしています。
2020年の夏を過ぎたころからでしょうか、「生理が来ない」と受診する中高生が増えたような印象がありました。
J子さんもその一人です。話を聴くと「緊急事態宣言で学校が休みになったので、ダイエットを始めた」「ダイエットのために食事の量を減らしている」と言います。
無月経の原因がダイエットと考えられるお子さんが他にも何人か来られて、「こんなところにも新型コロナウイルス感染症流行の影響が出るのか」と驚く一方、保護者の方も中高生のダイエットの危険性をあまり認識できていないように感じました。
今はもう、緊急事態宣言による休校はありませんが、この時期は夏休みを控えてダイエットを始めるお子さんが多くなる時期です。ダイエットも低年齢化が進み、小学生の間でも増えています。
そこで今回は、お子さんのダイエットに潜む危険性についてお伝えします。
《摂食障害に注意》
摂食障害とは、ダイエットをきっかけに発症することが多い病気です。いわゆる拒食症(神経性やせ症)などをさします。
体重がうまく減ると一時的に達成感や充実感が得られ、さらに極端な食事制限や偏った食事を追及する、という悪循環に陥ることで病気が進行します。低栄養の状態が極端になると死にいたることもあるため、適切な治療が必要です。
摂食障害とダイエットの違いは、
・やめようと思えるかどうか:ダイエットの場合は、やめようと思えばやめられます。
・体重や食事のことが意識のほとんどを占めているかどうか:体重の変化や食事のことで頭がいっぱいになり、他のことに意識がいかない場合は、摂食障害です。
の2点です。
摂食障害を疑う場合には、心療内科や精神科に相談することも検討してください。
摂食障害情報ポータルサイト(http://www.edportal.jp/sp/index.html)が参考になります。セルフチェックもできます。
《知っておこう、摂食障害のサイン》
摂食障害を疑うには、まずお子さんの変化に気がつかなくてはなりません。
ダイエットがきっかけの場合、摂食障害を発症してもダイエットの延長と捉えてしまい、家族でもお子さんの変化に気づけないことがあるようです。早期の対処が大切な病気であるだけに、あらかじめ摂食障害のサインを知ってきましょう。
上述した摂食障害情報ポータルサイトにも詳しく書かれていますが、いくつかここでご紹介しておきましょう。
・体重に関するサイン
急激に体重が減少する。
体重が増えることを極端に怖がる。
1日のうちに何回も体重計に乗る。
・食事に関するサイン
食べる量が減る。
カロリーの低い食品(野菜、海藻など)ばかり食べる。
カロリーを厳密に計算する。
全然食べていないにも関わらず、「お腹が空いていない」「食べている」と言う。
・その他のサイン
常に動き続けている。
食事の後にしょっちゅうトイレに行く。
普段の活動や友達づきあいが極端に減る。
月経が止まる、不順になる。
《低栄養に注意》
摂食障害でなくても栄養が不足すると全身にさまざまな症状が出ます。栄養状態が改善すれば、ほとんどの症状は改善します。
しかし、影響が長期にわたるものもあります。たとえば、無月経は月経がない期間が長くなると、体重が戻っても月経がなかなか再開しないことがあります。
ダイエットをするときは、偏った食事や食事制限はせず、適正な体重を目指すようにして、低栄養にならないようにしましょう。
低栄養で起こる代表的な症状は、次のとおりです。
・低身長
成長期のお子さんの場合、体重が減るだけでなく身長の伸びにも影響を与えます。身長が伸びている間のダイエットはお勧めしません。
・貧血
赤血球を作るための鉄分は、肉や魚などに多く含まれます。ダイエットで食事が偏ると鉄分が不足し、貧血になってしまいます。疲れやすい、息切れなどの症状が出ることもあります。
・月経(生理)がない
標準体重の80%を下回ったり、急激に体重が減ったりすると、月経が止まることがあります。体脂肪が減ることで女性ホルモンも減ってしまうからです。体重が回復すれば、月経も自然に再開します。
・骨がもろくなる
体重減少に伴って女性ホルモンが減ると、骨にも影響が出ます。骨折しやすくなったり、若い頃から骨粗鬆症になることもあります。カルシウムの摂取不足によって中学生の頃の骨量が足りないと、大人になってからはもう補うことができません。
・お肌のトラブル
髪の毛が抜けやすい、肌が乾燥するなどのトラブルが起こります。手や足が黄色くなることがあります。
・便秘
・むくみ
・疲れやすい
・冷え症
・集中力の低下
・イライラ、抑うつ
摂食障害では、イライラなどをコントロールするために、食事制限や過食にのめり込んでしまうこともありますが、実際は栄養をしっかり摂ることでこれらの精神症状が改善していきます。
栄養は、身体だけでなく心にとっても必要不可欠なものなのです。
《知っておこう、子どもの肥満度のチェック方法》
子どもの肥満度を見るには、次の指数を用います。
・幼児 (3ヶ月〜5歳)→カウプ指数 = 体重(kg) ÷ 身長(m)2
・児童・生徒(小・中学生)→ローレル指数 = 体重(kg) ÷ 身長(m)3 × 10
年齢・身長・体重を入力すると簡単に計算ができるサイトもあるので、参考になさってください。
なお、高校生以上は成人と同じBMIを用います。
ところで、J子さんはその後、無理なダイエットから離れることができたそうです。食事量が増えると月経も再開し、笑顔が戻ったと聞いております。
なお、摂食障害に対するコロナ禍の影響は、データでも裏付けられています。摂食障害学会による2022年の全国調査では、10代の神経性やせ症の新規患者数を比較すると、2020年は2019年に比べ約1.5倍、2021年は約1.8倍に増加していたそうです。
今後、コロナ禍の影響は徐々に減っていくかもしれませんが、子どもの摂食障害じたいは近年著しく増加しています。
お子さんがダイエットを始めたら、体重や食事量の減り方に注意しましょう。必要のないダイエットではないか、極端なダイエットになっていないか、チェックしてあげてください。
Mimosa代表 杉山伸子
10年を超える産婦人科医としての臨床経験を通じて、女性がより健康で幸せな生活を送るためには、女性の健康リテラシーの向上が大切だと考えるようになりました。
その実現を目指し、女性の健康に関する情報提供・教育・相談を行う団体として、Mimosaを立ち上げました。
共に活動しているメンバーは、今までの職場で出逢った信頼できる女性医療のプロばかりです。