2024.7月号 ドクターコラム
「リプロ」のプロ集団Mimosa代表の産婦人科医、杉山伸子です。
このコラムでは、リプロダクティブ・へルス(略して「リプロ」)に特化した情報を皆さんにお届けしています。
今月のテーマは、「ゼロ歳から始める性教育」です。新米ママさん向けの講座でお話しした内容をもとにお届けします。
講座では、始めにこんな質問をしました。
「皆さんは、お子さんに、どんな風に育ってほしいですか?」
以下は、その時にいただいた答えです。
「健康に育ってほしい」
「幸せになってほしい」
「相手を思いやれる子になってほしい」
実は、性教育は、そんな皆さんの願いをかなえるツールにもなるものです。
どういうことでしょうか。
それは、性教育とは、子どもたちの健康とウェルビーイング、尊厳を実現し、お互いを尊重できる(性的な関係も含む)人間関係を育てるためのものであり、そのために必要な知識やスキル、態度や価値観を子どもたちに身につけさせるものだからです。二次性徴や妊娠・出産など、生殖に関係することだけを教えるものではありません。
今回は、性教育を通して子どもたちに身につけてほしい幅広いコンセプトの中から、生まれた時から伝えることができる内容について、具体的にご紹介します。
①お子さんと接する時に、お子さんの健康、ウェルビーイング、尊厳のために実践したいこと
(ア)清潔を保つ:おむつを替える時、お風呂に入る時、体を清潔に保つことの心地よさや大切さを伝えましょう。「きれいになって気持ちいいね」「うんちが出てすっきりしたね」と声をかけてあげるのもよいでしょう。
(イ)尊厳を保つ:赤ちゃんであっても、人としての尊厳があることには変わりありません。ゼロ歳の時からプライベートゾーンを大切にしてあげてください。「見せてもらうよ」という態度を示し、オムツの交換時や授乳時にはプライバシーが確保できる場所を選びましょう。
(ウ)境界線を保つ:自分自身とお子さんの間に、境界線をきちんと引きましょう。お子さんは、自分とは別の人格を持った一人の人間です。自分の考えを押しつけず、お子さんの気持ちを尊重できるよう、赤ちゃんの頃から意識しておきましょう。
②家庭での人間関係によって、お子さんに手本として示したいこと
(ア)家族のかたち:家族にはいろいろな形があること、家族のメンバーにはそれぞれの役割があることを伝えていきましょう。どれがいいとか、悪いとかはありません。大切なのは、家族のメンバーが対等な関係で良好な関係を築けていることです。また、「あなたが大切だよ」という気持ちで、赤ちゃんの顔を見て優しく抱っこをしてあげてください。
(イ)人権の尊重:性教育は、人権教育です。赤ちゃんだけではなく、家族のメンバーすべての人権を尊重しましょう。赤ちゃんは、両親や家族の関係をずっと見て育ちます。お互いを大切にする人間関係を築いてください。
(ウ)ジェンダー平等:「男らしさ」「女らしさ」のようなジェンダー観は、2歳ぐらいでも既にできあがっていると言われています。それは、大人の声がけや行動によるものです。お子さんの希望や好み、可能性をつぶしてしまわないように、ジェンダーにもとづいた思い込みをできるだけ排除した子育てをしましょう。ジェンダーにもとづいた思い込みは、おもちゃ(車、お人形)や遊び(おままごと、戦闘ごっこ)、好きな色、服装や髪形(スカート、髪の毛の長さ)など、いろいろなところにあります。また、自分たちの家庭内の役割についても、ジェンダー平等の観点から見直してみましょう。
自分のからだや気持ちを大切にすることは、誰かに大切にされて初めて身につきます。自分のからだや気持ちを大切にできれば、他人のからだや気持ちも大切にできるようになります。性教育は、その素地をつくるためのものです。最初のうちは、言葉も必要ありません。自分たちの行動や態度で伝えていきましょう。
そしてまた、ゼロ歳から始める性教育は、親にとっては絶好の学び直しのチャンスでもあります。性教育の本や参考サイトなども見ながら、お子さんとともに学んでいってください。
Mimosa代表 杉山伸子
10年を超える産婦人科医としての臨床経験を通じて、女性がより健康で幸せな生活を送るためには、女性の健康リテラシーの向上が大切だと考えるようになりました。
その実現を目指し、女性の健康に関する情報提供・教育・相談を行う団体として、Mimosaを立ち上げました。
共に活動しているメンバーは、今までの職場で出逢った信頼できる女性医療のプロばかりです。