2025.7月号 ドクターコラム【産婦人科医として児童館でのひととき ~中学生の性に関する質問に答えて~】
先日、地域の児童館で開かれた中学生の集まりで、「産婦人科医のはなしを聞こう」と題して、性に関する話をする機会をいただきました。集まったのは数人の中学生。あらかじめ書いてくれていた質問に回答する形で行いました。
質問とそれに対する私の回答をいくつかご紹介します。お子さんからの質問に対する答え方として、参考になれば嬉しいです。まずはこんな質問がありました。
「どんな時に仕事のやりがいを感じますか?」
答え:
私は産婦人科医として、女性の健康を支える仕事をしています。今までの経験を振り返ると、難産を乗り越えて赤ちゃんが元気に生まれてくれた時、治療がうまくいった時など、いろいろな場面でやりがいを感じてきました。「先生、ありがとう」と言ってもらえる瞬間はもちろん、患者さんが笑顔になったり、元気になったりしていくサポートをできることにやりがいを感じています。
性について、本質的なことを問う質問もありました。
「なんで性別があるの?」
答え:
人間を含む多くの動物は、オスとメスに分かれてこどもをつくります。これは「遺伝子を混ぜることで、より丈夫な子孫を残す」ためと考えられています。ふたりの親から受け継ぐ情報が混ざり合うことで、親と似ているけどちょっと違うこどもができます。この違いが多様性です。多様性がたくさんあることで、全体として変化に強い集団になります。
遺伝子を混ぜるために作るのが配偶子です。メスは卵子、オスは精子を作ります。卵子と精子がくっついて1つになることで、新しい命が生まれます。卵子と精子は同じ形ではありません。卵子は大きくなって、こどもが育つための栄養を蓄えるようになりました。精子は特別な形になって、卵子に出会うまでの移動を担当するようになりました。メスは、できた受精卵を子宮の中で赤ちゃんになるまで育てます。このようなはたらきの違いが、からだの違いにつながっています。
注釈:
時間に余裕があれば、「性」については以下のことをつけ加えたらよかったかもしれません。
人間は、子孫を残すためだけに生きているのではありません。「性」には、からだのつくりとしての性(身体的性)以外にもいくつか大切な要素があります。自分自身の性別をどう認識しているか(性自認)、どのような性を好きになるか(性指向)、どのような性を表現したいか(性表現)。これらは、自分らしさ=アイデンティティのための「性」です。みんなが自分らしく生きるために、すべての人の「性」を尊重しましょう。
「女性は生理が来たら赤ちゃんをつくれるって聞いたけど、男性はどうなったら赤ちゃんをつくれるの?」
答え:
女性の場合は初経(はじめての生理)が始まると妊娠できる体の準備ができた、という目安になります。最初の頃は、妊娠するために必要な卵が作られていない時もあって生理は不規則になりがちですが、高校生になる頃までに順調になります。
一方、男性の場合は「精通(せいつう)」がそのサインです。精通とは、精子が含まれた液体(精液)が初めて出ることをいいます。最初の頃は、寝ている間におきる「夢精(むせい)」という形で経験することが多いかもしれません。なぜなら、リラックスした時に精液が出るようになっているからです。やがて、必要な時に精液を出せるように、コントロールできるようになります。
つまり、精通があると、男性も赤ちゃんをつくる体の準備が整ったことになります。
生理に関する質問がたくさんありました。1つ紹介しましょう。
「生理前からイライラしたり泣きたくなったりするのはなんでですか?」
答え:
生理には、個人差があります。でも、生理前のイライラや気分の変化は、実は多くの人が感じていることです。
生理の前に気分が不安定になるのは、「ホルモンの変化」が関係しています。生理周期の中で、エストロゲンやプロゲステロンといった卵巣が出すホルモンの量が変化します。その影響で脳の働きにも変化が起き、イライラしたり、落ち込みやすくなったりするのです。
また、胸がはったり、頭痛がしたり、体に症状が出ることもあります。体や心のすべての症状をまとめて、「PMS(月経前症候群)」といいます。PMSにはいろいろな症状がありますが、生理が始まるとスッと良くなることが特徴です。
PMSがある人は、生理前に疲れをためない、無理をしない、気分転換を図る、などの対策をとると、症状がましになることもあります。日ごろから運動をしているとひどくなりにくいという報告もあります。これらのセルフケアをしてもつらい場合には、産婦人科で相談してください。より快適に過ごせるような薬があります。
今回、周りで聞いていた大人たちも真剣に聞いてくれ、「勉強になった」と言っていたのが印象的でした。こどもたちの前で、「分からない」「知りたい」を表明できるというのは、とても素敵なことだと感じました。
ただ、自分が知らなければ、こどもたちに質問された時に「そんなこと聞かないの!」と言ってしまったり、性に関することを隠そうとしてしまったりするかもしれません。今からでも遅くありません。性に関する知識をアップデートしてみませんか。
アップデートにおすすめのサイト
- SEXOLOGY:https://sexology.life/ →スマホで性が学べるサイトです
- セイシル:https://seicil.com/WAVE出版 こどもたちに必ず紹介しているサイトです
- おとなセイシル:https://otona-seicil.com/ →「セイシル」におとな向けサイトができました

Mimosa代表 杉山伸子
10年を超える産婦人科医としての臨床経験を通じて、女性がより健康で幸せな生活を送るためには、女性の健康リテラシーの向上が大切だと考えるようになりました。
その実現を目指し、女性の健康に関する情報提供・教育・相談を行う団体として、Mimosaを立ち上げました。
共に活動しているメンバーは、今までの職場で出逢った信頼できる女性医療のプロばかりです。
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