2025.11月号 ドクターコラム【ママになる前に、ママである今こそ——プレコンが教えてくれる健康のヒント】
妊娠が分かり、産婦人科を受診したP子さん。
血圧が、なんと160/110。
看護師も驚き、医師からは「このままではリスクが高すぎて、うちでは対応できない」と言われてしまいます。紹介された大学病院では、すぐに教育入院となり、食事指導も受けました。幸い、2週間ほどの入院で薬を調整でき、血圧も安定しました。
その後は、遠方にある大学病院に通うことになりましたが、赤ちゃんもP子さんも大きな合併症を起こすことなく、無事に出産できました…。
妊娠して初めて高血圧だと分かったら、ビックリしますよね。血圧をきちんと管理できた状態で妊娠していれば、そこまで心配せずに済んだはずです。
もっと言えば、もともと高血圧を予防できていれば、どうでしょうか。より安心して妊娠することができるでしょう。
このように、妊娠する前から心身の健康に気を遣い、妊娠に適した状態を保つことを「プレコンセプション・ケア(通称・プレコン)」と言います。
プレコンセプション・ケアは、妊娠前の女性に限るものではありません。兵庫県の定義によると、若い世代が妊娠及び出産の希望を含む自分たちの将来設計を考えて、日々の生活や健康に向き合うことです。妊娠を希望する人だけでなく、今は妊娠を考えていない人、さらには男性にとっても重要な概念です。
- なぜ、プレコンが重要なの?
妊娠・出産は、身体的にも精神的にも大きな変化を伴います。
妊娠前から健康状態を整えることで、妊娠中の合併症リスクを減らし、母体と胎児の健康を守ることができます。たとえば、糖尿病や高血圧などの慢性疾患がある場合、妊娠前にコントロールしておくことで、妊娠中のリスクを大幅に軽減できます。
また、葉酸の摂取や禁煙・禁酒なども、胎児の先天異常予防に効果的です。
しかし、プレコンの本質は「妊娠するかどうかに関係なく、自分の体と向き合うこと」にあります。健康は、妊娠の有無にかかわらず、すべての人にとって価値あるものです。
- 「妊娠・出産を考えていなくても?」「男性でも?」―「はい、それでも重要です」
「妊娠しないから関係ない」「男性だから関係ない」と思われがちですが、それは大きな誤解です。
妊娠を希望しない人も、性感染症予防や月経異常の早期発見、メンタルヘルスのケアなど、プレコンの視点での健康管理は有益です。
男性にとっても、精子の質は生活習慣に大きく左右されます。
喫煙、過度な飲酒、ストレス、睡眠不足などは、精子のDNA損傷や運動率低下につながり、妊娠率や流産率に影響を与える可能性があります。
また、パートナーと共にライフデザインを考えることは、より良い関係性の構築にもつながります。
- 具体的に、何をすればいいの?
では、私たちは何から始めればよいのでしょうか。
プレコンの第一歩は「自分の体を知ること」です。
月経周期の記録、体重や血圧の管理、定期的な健康診断の受診など、日常の中でできることはたくさんあります。
次に、「生活習慣の見直し」。
バランスの取れた食事、適度な運動、十分な睡眠、ストレス・マネジメントなどは、妊娠に限らず、人生の質を高める基本です。多くの生活習慣病予防にも役立ちます。
さらに、性に関する正しい知識を持ち、避妊や性感染症予防について理解を深めることも大切です。
最後に、「未来を描くこと」。
将来の妊娠・出産を希望するかどうかにかかわらず、自分の人生をどう生きたいかを考えることが、プレコンの本質です。それは、自分自身を大切にすることにつながります。
プレコンは、すべての人に開かれた“未来への準備”です。
あなたの健康とウェル・ビーイング(しあわせ)のために、今この瞬間から意識してみませんか。あなたの未来は、あなた自身の選択と行動で、もっと健やかに、もっと自由に描けるのですから。

《参考》
兵庫県ホームページ:https://web.pref.hyogo.lg.jp/kf17/r6prekon.html
※子供たち向けのサイトのリンクもあります。啓発動画やクイズで学ぶことができます。

Mimosa代表 杉山伸子
10年を超える産婦人科医としての臨床経験を通じて、女性がより健康で幸せな生活を送るためには、女性の健康リテラシーの向上が大切だと考えるようになりました。
その実現を目指し、女性の健康に関する情報提供・教育・相談を行う団体として、Mimosaを立ち上げました。
共に活動しているメンバーは、今までの職場で出逢った信頼できる女性医療のプロばかりです。
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